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照明デザイン賞受賞者一覧

照明デザイン賞は、光を素材とした、優れたデザイン的内容を持ち、創意工夫に満ちた作品を顕彰するものであり、近年、国内に竣工した空間に対する光環境や照明デザインにおいて、社会的、文化的見地からも極めて高い水準が認められる独創的なもの、或いは新たな照明デザインの可能性を示唆するもので、時代を画すると目される優れた作品を称え表彰するものです。

2024年 照明デザイン賞 講評

総評

 応募総数は45件で例年同様に多岐に渡る作品の数々であった。1,2,3次審査を経て選ばれた12件が現地審査の対象となり、各審査員で現地審査を行った。現地審査では応募資料だけでは伝わらない、取巻く環境や効果等を実際に確認しながら関係者の熱心な説明を受けた。最終審査で議論された結果、最優秀賞1件、優秀賞3件、入賞3件、審査委特別賞1件の計8件が受賞した。いずれも時代に即した素晴らしい作品であり、今後のデザインの可能性を示唆するものであった。

(審査員長 松下美紀)

最優秀賞:五島リトリートray

撮影:ナカサ&パートナーズ

受賞者:
西村 英俊(大成建設一級建築士事務所)
古野 清也(橋本夕紀夫デザインスタジオ)
作品関係者:
事業主:
池田 尚真(双日五島開発株式会社)
建築設計:
高橋 秀秋(大成建設一級建築士事務所)
建築設計:
金子 由里子(大成建設一級建築士事務所)
建築設計:
押川 快(大成建設一級建築士事務所)
デザインアーキテクト:
広谷 純弘(アーキヴィジョン広谷スタジオ)
デザインアーキテクト:
石田 有作(アーキヴィジョン広谷スタジオ)
照明設計:
川上 和士(モデュレックス)

作品コンセプト:

 五島リトリートrayは、長崎県五島市の地域創生を目的に、五島市の魅力を伝える西海国立公園鐙瀬海岸エリアの活性化のシンボルとして計画されたスモールラグジュアリーホテルである。ロビーの壁と天井にはアルミパネルを配し、客室の窓際の壁には鏡を貼ることで目の前に広がる水平線や景色を室内に取り込んでいる。
 ロビーの壁面には、吹きガラスのブラケット照明を取り付け、日中は補助的にアルミを照らし、夕暮れ以降は、視覚的に明るさを伝えている。レジンで水盤を表現した中央のテーブルには、満月をモチーフにした照明が仕込まれており、日中は空模様、日暮れは満月の灯が天井のアルミパネルに映り込み、時の移ろいを演出している。客室はポイントだけを照らし、特注のスタンド照明やステンドグラスの間接照明等を目に入る高さに置くことにより、室内が明るく感じられるように考えた。

講評:

 静寂と暗闇の中に建つ美しいホテルである。漆黒の闇の中に浮かび上がる星空に、ミニマルな照明デザインで環境に調和したホテルが作られた。ロビーや客室は南側の鎧瀬海岸を、2階のレストランは北側の鬼岳が借景となり、それらを天井や壁に反射させインテリアに取り入れている。特筆すべきは、ロビーに間接照明技法を使用せず、水のモアレをイメージしたガラスグローブのみをペンダントやブラケットライトとして使用し成功させているところである。象徴的な大テーブルには、水盤をイメージした光が天井に反射して月をイメージさせている。このような人のイマジネーションを引き出すアイデアは客室にも行き渡っており、乳白ガラスグローブをスタンドやブラケットライトで使用し、目線に沿った位置にコントロールすることで風景を分断せずに完結させている。この精緻な光のデザインは、リゾートホテルの本来の役割である「居心地の良さ」を表現しており高く評価された。

(松下美紀)

優秀賞:SIMOSE

撮影:平井広行

受賞者:
岩井 達弥(Lumimedia lab株式会社)
石井 孝宜(Lumimedia lab株式会社)
佐藤 杏恵(Lumimedia lab株式会社)
作品関係者:
美術館事業主:
一般財団法人下瀬美術館
ヴィラ事業主:
Shimose A&R株式会社
建築設計:
株式会社坂茂建築設計
構造設計:
株式会社KAP
設備設計:
株式会社森村設計
ランドスケープ:
有限会社アースケイプ

作品コンセプト:

 SIMOSEは、美術館とヴィラそしてレストランを瀬戸内海に面した魅力的なランドスケープの中にちりばめた新しいタイプの施設である。瀬戸内海に浮かぶ島々をイメージし「多島美のような風景をつくりだす建築群」をコンセプトとした、色あざやかに光る水盤上の8色の可動展示棟(水に浮かせて移動が可能)が水面およびエントランスと企画展示棟のハーフミラーの外壁に映り幻想的な風景をつくりだしている。

講評:

 美術館をメインとした複合施設である、敷地に一歩踏み入れてみると、「反射」が大きなデザインテーマとなっていることに気づく。トレードマークのカラフルな展示室群を海側から見ると、実は施設は一枚のミラーガラスのカーテンウォールの背面に隠れ、消えている。一方で、展示室群はミラーガラスのファサードと水盤により水平にも垂直にも反射され、実像と虚像とが入り混じった不思議な風景を生み出している。さらには、昼間はミラーガラスの反射で存在が消えている諸施設が日暮れと共にうっすらと見え始め、重なり、複雑で現象的な風景を刻一刻と変化させていく。この建築は、時系列の反射のシークエンスがテーマなのだ。この現象的建築を成立させるには、建築と照明の入念な摺合わせに加え、自然光と人工照明の適切なコントロールが不可欠である。個々の手法は特段の目新しさではなく、全体として照明計画の完成度の高さに照明デザイナーの卓越した手腕を感じさせる作品であった。

(山梨知彦)

優秀賞:福岡大名ガーデンシティ

撮影:SS Co., Ltd. Ueda Shinichiro

受賞者:
中村 元彦(株式会社松下美紀照明設計事務所)
磯矢 孝(久米設計・醇建築設計共同企業体(株式会社久米設計九州支社))
牧 敦司(久米設計・醇建築設計共同企業体(株式会社醇建築まちづくり研究所)
作品関係者:
事業主:
大名プロジェクト特定目的会社(代表企業 積水ハウス株式会社)
建築設計:
安東 直(株式会社久米設計 設計本部)
建築設計:
柳下 元宏(株式会社久米設計九州支社)
建築設計:
濱邊 信晴(株式会社久米設計九州支社)

作品コンセプト:

 規制緩和で民間投資を募る福岡市の施策「天神ビッグバン」により開発された複合施設である。建築の特徴を際立てる光のコントラストと穏やかな光のグラデーションをコンセプトに、人を引き込む光の繋がりをデザインした。雁行する建築の特徴を照らして、博多湾の客船や空路からの視線も考慮した夜景を創出している。穏やかな光環境の中に多くの人が広場に集まり、夜を積極的に楽しむ姿が、都心のオアシスとして日常の光景となっている。

講評:

 「天神ビッグバン」と称し都市開発を進める福岡市のランドマークの一つとなった建物である。旧小学校校舎再利用を含めた開発事業であり、高層部ホテルを含んだ複合ビルとそれら建物に囲まれた芝生空間が主な構成である。ガラスカーテンウォール建物のライトアップにはガラス素材故の難しさがあるが、当該プロジェクトでは大胆な門型形状建物外郭ガラス素材を照明設計者と建築設計者が意見を交わした上で使い分けている。ビル外郭部には高反射ガラスを用い、建物をくぐり抜けるゲート内側部分にはその形状を強調するライン照明に加え比較的透過性のあるガラスを用い、昼夜の光の溜り方に変化を設けることでランドマーク性向上に成功している。建物に囲まれた都会のオアシス的芝生空間へは夜間ビル上層部からほのかな投光がある。既に市民の認知を受け、昼間のみならず夕刻以降も人が集う空間となっていることが印象的である。このプロジェクトは都市開発構想を受け建築設計者が目指した理念に照明が呼応しそれを支えた事例である。

(水馬弘策)

優秀賞:BOOKMARK STORAGE

撮影:Phenomenon Lighting Design Office Inc.

受賞者:
永津 努(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)
山﨑 健太郎(株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ)
作品関係者:
事業主:
DMG森精機株式会社
建築設計:
村田 翔太郎(株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ)
照明設計:
大西 彩生(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)

作品コンセプト:

 JR関西本線新堂駅の駅前整備計画のひとつ。知と芸術の収蔵庫として建てられた図書館。
葡萄栽培を皮切りに集落をつくるようにゆっくりと広がり農・文化・生活が折り合わさった農村景観の再構築を目指している。地上階は居心地のよい広場、2階は本棚が立ち並ぶ屋根裏のような書庫が広場を包む。「陽光・月光 移ろいの陽だまりを楽しむ広場」をコンセプトに、お気に入りの本を手に、陽だまりから月影に移ろう時間を楽しみ、地の風に揺られる心地良い場が生まれた。

講評:

 農村景観の再構築を目指し、屋外の駅前広場と繋がる開放的な下層の屋内広場の上に、落ち着きのある上層の書庫を備える施設である。昼光がトップライトから上層を貫き主として下層を照らし、上層の書架は低色温度ブラケットで照明する。夜は昼光に代わり低色温度スポットライトが照明する中、アート作品ごとに設置した照明が高色温度でも、低い内装明度ゆえに調和が保たれる。昼夜共に照明が、特に光色の違いを空間構成や内装と連携して上手く整理したデザインである。上下層、屋内外全体でデザインが統一されたブラケットは、その配置が空間に適度な規律とリズム、統一感を与える。低層部に配置されるアート作品は外部からも見られるが、道路併設照明が本作品の見えを損なう点は惜しい。本作品は集落の照明空間の指針を示す役割を十分に果たしており、今後は本作品を基軸として集落全体に質の高い照明空間、夜間景観が形成され維持されることに期待したい。

(原直也)

入賞:代々木参宮橋テラス

撮影:Fumito Suzuki

受賞者:
戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
栗田 実(株式会社竹中工務店)
作品関係者:
事業主:
橘 明宏(株式会社竹中工務店)
建築設計:
平岡 麻紀(株式会社竹中工務店)
設備設計:
村瀨 澄江(株式会社竹中工務店)
設備設計:
松岡 竜也(株式会社竹中工務店)
設備設計:
吉田 明佑美(株式会社竹中工務店)
照明設計:
辻 知花(有限会社シリウスライティングオフィス)

作品コンセプト:

 都心の閑静な住宅地に佇む4階建ての集合住宅。
 ロの字型の住棟に囲われた緑豊かな中庭は、日中は吹抜を通して爽やかな自然光が降り注ぎ、日没後は温もりを感じさせる植栽や緑影、間接照明の陰翳で満たされる。ダウンライトや手摺照明に頼らず、特注支柱付きスポットライトによりRC造の無垢な天井面そのものを柔らかく美しく照らす光環境は、心地良くも洗練された情景を生み出している。

講評:

 ユニークな形状の中庭にはたっぷりの植栽と有機的な通路。それらが間接光と植物の葉影のデザインによって独特の雰囲気を醸し出している。通路の天井にはダウンライトなどの照明が一切ない。間接光のみで10ルクスの適正照度を与えていた。
 各住戸には垂直の間接光が門灯のようにデザインされている。その温かい光が散在する景色は、新しい集住の在り方を象徴している。私達が現地視察した真冬には、期待に応えるだけの葉陰を演出していなかったことが多少残念であった。

(面出薫)

入賞:B Residence

撮影:井上玄

受賞者:
井上 玄(株式会社GEN INOUE)
吉野 翔太(株式会社GEN INOUE)
久保 隆文(株式会社Mantle)
作品関係者:
照明設計:
吉清 紫(株式会社Mantle)
照明設計:
阿部 実(株式会社Mantle)
施工会社:
山口 脩平(大同工業株式会社)
電気工事:
鷲見 彰一(スミ電機工業有限会社)

作品コンセプト:

 山麓部に建てられた別荘。南側に近接する隣家を隠しながら雄大な山をパノラマで眺められる景色を主役とし、東西の空間の連続性や抜けも味わえる。LDKの東西に長い軸を設定し、大小の相似形の空間を交互に配した空間構成はワンルームに変化をもたらし、見える範囲を狭めてトンネル状の空間の先に景色を切り取った。軸を強調する床のライン照明、現し天井を局所的に照らすなど手法を使いわけ、直感的な光環境の美しさに拘った。

講評:

 湯河原の別荘エリアに建つB Residenceは、隣地の建物自体は見えないように建築および窓の配置が工夫され、周辺の自然景観を借景として取り込んでいる。照明計画は建築のコンセプトを生かすように検討され、室内照明の映り込みによる空間の広がりが感じられた。また借景を取り込んだ建築の構成は、夜間は漏れ光によってその特徴をより強調する効果も得られていた。空間の用途に応じて設置された間接照明は、別荘にふさわしい居心地の良い雰囲気をもたらしていた。

(福多佳子)

入賞:水戸市民会館

撮影:株式会社 ライティング プランナーズ アソシエーツ

受賞者:
窪田 麻里(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
山本 幹根(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
木村 光(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
泉町1丁目北地区市街地再開発組合
建築設計:
伊東豊雄建築設計・横須賀満夫建築設計事務所共同企業体
家具デザイン:
藤江和子アトリエ
テキスタイルデザイン:
安東陽子デザイン
サイン計画:
廣村デザイン事務所
ランドスケープ:
GAヤマザキ
電気設備設計:
大瀧設備事務所

作品コンセプト:

 豊かな共用スペースと大中小ホール、イベント広場、展示室、和室などを有するこの複合文化施設では、朝から夜に至り変化する照明シーンのもと、様々な世代の人たちが好きな空間で心地よく過ごせる光環境づくりを目指した。
 4層吹抜けの“やぐら広場”の照明は、木架構の温かみと力強さを表現しながら、屋外広場のような穏やかさとフレキシビリティを両立させている。また施設の中核となるホール外郭壁面を照らしだし、外周部には特注スタンド照明を計画。外観に内部のアクティビティを表出させ、水戸の街並みに活気ある風景を創り出すことも意識している。

講評:

 水戸市民会館の移転、建て替え計画は、ヒトを集客するだけでなく、建築の特徴をいかした照明計画によって、エリアの夜間景観の価値を高める効果ももたらしている。22時まで通り抜け可能なやぐら広場では、調色調光用照明器具によって4つの照明シーンが提供され、時間帯ごとに訪れる楽しみも得られていた。ホール自体で催事がなくてもやぐら広場やミーティングラウンジのテーブルで、夜間でも勉強している学生が多く、市民に愛されている様子が良く分かる施設であった。

(福多佳子)

審査員特別賞:住友ビルディング エントランス改修

撮影:Akira Ito(aifoto)

受賞者:
戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
永田 爽寧(有限会社シリウスライティングオフィス)
作品関係者:
事業主:
三井住友信託銀行株式会社,住友商事株式会社
建築設計:
喜多 主税(株式会社日建設計)
建築設計:
高畑 貴良志(株式会社日建設計)
建築設計:
円田 翔太(株式会社日建設計)
ランドスケープ設計:
岩田 友紀(株式会社日建設計)

作品コンセプト:

 オフィスビルエントランスの改修計画。
 大通りに面する二層吹抜の格子壁では、象徴的に照らし出された木格子がライトアップした植栽とともに行き交う人々の目を奪う。通路では、細やかな格子目の陰影美と水平方向の光の広がりを感じさせる平面格子天井から、垂直方向への光の広がりを感じさせる立体格子天井へと滑らかに繋げることで、来訪者は心地よく変化する景色を体験できる。

講評:

 オフィスビルエントランスの天井改修計画。大阪中之島沿いの大通りに面するエントランスでは木格子壁が組み上げられ、そこから南北を貫く通路天井にも木格子が施されている。エントランスに入った瞬間、大阪ビル群のオフィスビルではない雰囲気である。木格子の天井、壁が印象的に浮き上がり、吹抜の格子天井のDLによって樹木が照らされ床面に緑陰が広がっている。伺った時が夕刻だったこともあり大勢の方が風除室から外に出る度に緑陰が風で揺らぎ、心地よい空間であった。

(吉野弘恵)

2023年 照明デザイン賞 講評

総評

 今年の応募総数は49件で、内容も住宅、医療、商業や宗教そして公共施設と多岐に渡る作品の数々であった。1次、2次審査を経て現地審査の対象となった11件を、各審査員が現地で応募者からの熱心な説明を受けながら検証を行った。最終審査では9項目の評価項目に沿って熱心に議論され、審議の結果、今回は最優秀賞の該当はなかったが、優秀賞を含めて7作品の受賞を決定した。いずれも創意工夫に満ちた素晴らしい作品であった。

(審査員長 松下美紀)

優秀賞:石川県立図書館

受賞者:
窪田 麻里(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
村岡 桃子(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
木村 光(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
石川県
建築設計:
仙田 満(環境デザイン研究所)
ランドスケープ:
柳原 博史(マインドスケープ)
サイン:
廣村 正彰(廣村デザイン)
家具・什器:
川上 元美(川上デザインルーム)
展示:
水間 政典・塩津 淳司(トータルメディア開発研究所)

作品コンセプト:

 “知の殿堂との出会いに相応しい光” をコンセプトに、機能性と快適性が高次元で両立する照明計画に努めた。
弧を描いてレイヤーを成す書架への照明は、本を照らすという基本的機能に加えて、1.空間の明るさ感を作る鉛直面輝度、2.天井を照らすアンビエント光、3.キャレル照明、の総合体として存在する。エリアごとに異なる魅力の光の表情をもつ、目くるめく本との出会いの体験を演出する図書館照明計画となった。

講評:

 グレートホールと呼ばれる円形の4層吹抜閲覧空間と、その頭上を覆う青のドームがこの建物の象徴である。円弧状かつ階段状に積層する書架棚に、照明の主要な機能が集約されているのがポイントで、ここから主な空間の快適性を高める立面的な明るさと、閲覧のための機能照度および均斉度が提供されている。また、見上げたときに視界に入る青のドームと木ルーバーで覆われた天井面はアッパーライトで優しく照らし出されており、空間に心地よさをもたらしている。決して眩しさを感じさせないように配慮された計画により、来館者は本に囲まれた知の大空間をどこまでも回遊したくなるような気持ちになるだろう。一方で空間を包む大樹のような特徴的な構造フレームが埋没し、やや勿体なさを感じさせるのが惜しいところか。それを差し引いても、多くの市民が利用する公共空間に、優れた照明計画に支えられた魅力的な光環境が誕生した社会的意義は非常に高いものがある。

(戸恒浩人)

優秀賞:聖林寺観音堂

撮影:松村芳治

受賞者:
北川 典義(北川・上田総合計画株式会社)
上田 一樹(北川・上田総合計画株式会社)
藤原 工(株式会社灯工舎)
作品関係者:
事業主:
宗教法人 聖林寺
総合監修:
栗生 明(北川・上田総合計画株式会社)
設備:
伊藤 教子(有限会社ZO設計室)
設備:
竹森 ゆかり(有限会社ZO設計室)
照明設計補佐:
塚田 直喜(株式会社灯工舎)

作品コンセプト:

 奈良県桜井市、聖林寺の国宝・十一面観音菩薩立像(奈良時代)を安置する観音堂の改修・増築計画である。光に満たされた半球天井は、あまねく宇宙を象徴する「天蓋」を表現し、外陣からは御像の「光背」としての印象を与える。観音像と参拝者がひとつに包み込まれる内陣での空間体験が、末永く御像を後世へ継承する一助となることを願っている。

講評:

 奈良時代の木心乾漆像 国宝 十一面観音菩薩立像を仰ぎ見るように展示した観音堂の照明デザインである。光背のようにも見える半球天蓋の間接光は、写真資料のみでは適正照度環境であるか否かの判断が難しく、観音像の造形表現には高照度過ぎるようにも見受けられた。現地審査確認の結果、過剰照度は一切無く、前面からの投光による御像造形表現も巧みであった。半球の天蓋内面は左官の手技跡が残されており、間接光によりそれらが雲の如く僅かに揺らいで見える設えは像を更に大きく見せる効果も有した。国宝の湿温管理目的から像は無反射ガラスにより保護されているが、その設えの相応しさや周辺反射状況も現地で確認し、像を仰ぎ見る視線に障害となる光源映り込みは綿密に排除され、ガラスの存在を強く意識することが無い事を確認した。最後に当該ガラスの箱は「現代に於ける厨子である」とのご住職の御言葉が紹介され、この設えへの納得を覚えた次第である。

(水馬弘策)

優秀賞:琉球識名院

撮影:石井紀久

受賞者:
近田 玲子(株式会社近田玲子デザイン事務所)
野澤 寿江(株式会社近田玲子デザイン事務所)
株式会社豊田自動織機一級建築士事務所
作品関係者:
事業主:
無量寿山 光明寺
建築設計:
有限会社伊藤平左エ門建築事務所
建築設計:
株式会社TIS&PARTNERS
建築設計:
株式会社sngDESIGN
電気設計:
有限会社EOSplus
造園設計:
株式会社E-DESIGN

作品コンセプト:

 那覇市内に建つ浄土真宗の木造建築寺院の照明デザインでは、(1)中柱・梁のない天井垂木構造の天井を照らし、外の強い日差しとの対比を和らげながら御本尊像を際立たせる光で凛とした荘厳さを持つ本堂をつくること、(2)彼岸と此岸を区画する池泉に緩やかな曲線を描く本堂の琉球赤瓦の屋根が現実世界のものとして浮かび上がり、池の中心でひときわ強い輝きを放つ阿弥陀如来像が極楽浄土の再現を表す夜景をつくることを目指した。

講評:

 那覇市の小高い丘にある世界遺産「識名園」の真向かいに建立された浄土真宗の寺院である。内陣では8メートルの高さを持つ天井が昼間も間接照明で照らされている。これは、軒の深い日本建築様式と沖縄の強い日差しの気候の違いによって起きる、屋外との輝度差を解消させるためである。内陣の中央には1000Lxに照らされた阿弥陀如来立像が安置されている。宗教建築における光の役割は大きく、人智の想像を超えた世界観の表現が必要となるが、ここでは夜間、山門から見る輝くご本尊が中心性をつくりだし、その上には琉球赤瓦の大屋根、そして対の鴟尾が柔らかく輝いている。それら全体が本堂の前にある池に映り込み、昼と夜の光の2面性に加えて、水に映り込む2面性が荘厳さを表現し世界観を作っている。また、参拝者のみならず、道行く人からの見え方も計算し設計されたことが高く評価された。

(松下美紀)

入賞:金沢実践倫理会館

撮影:Koji Fujii / TOREAL

受賞者:
小杉 嘉文(株式会社竹中工務店)
松本 浩作(有限会社スタイルマテック)
天野 裕(ARUP)
作品関係者:
事業主:
一般社団法人実践倫理宏正会
建築設計:
上河内 浩(株式会社竹中工務店)
設備設計:
金子 研(株式会社竹中工務店)
設備設計:
杉浦 康太(株式会社竹中工務店)
照明設計:
真崎 雅子(有限会社スタイルマテック)
ファサードエンジニアリング:
松延 晋(ARUP)

作品コンセプト:

 早朝に集まることに特徴がある集会場の建替計画。複数の緑化テラスを立体的に配置した空間構成と、木漏れ日のような光を内部に導くキャストガラスをスクリーンに設けることで、日照時間が短い北陸において、特に夜明けの光の変化を体験し、光を繊細に空間に取り込むことを試みた。間仕切壁を排した館内において、自然光と照明光を組み合わせた光の操作によって、公園のように自由に居場所を見つけられる空間づくりを目指した。

講評:

 金沢の伝統的な街並みや自然光の特性にも配慮した照明計画で、ここを訪れることで体験できる光の変化となっている。ファサードに組み込まれた導光ガラスは自然光を取り入れるだけでなく、夜間は漏れ光として建物の存在感を示す効果も得られる。インテリアにおいても照明器具の存在感を感じさせずに必要な場所の明るさが得られるよう工夫され、自然光と人工光を一体的に検討された成果となっている。

(福多佳子)

入賞:LOQUAT Villa SUGURO

撮影:ナカサ&パートナーズ

受賞者:
永津 努(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)
井上 裕史(株式会社 乃村工藝社)
大西 彩生(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)
作品関係者:
事業主:
高野 由之(土肥観光活性化株式会社)
ディレクション:
小糸 紀夫(株式会社 乃村工藝社)
グラフィック:
二瓶 渉(株式会社 SHIROKURO)
ランドスケープ:
藤原 駿朗(株式会社 オリザ)

作品コンセプト:

 西伊豆は過疎化問題を解消するため、古民家をオーベルジュとして改装し、古来の建築の魅力を再発見し住民たちが誇りを感じられる文化継承のプロジェクトである。“古美と過ごす価値”を焦点に、「古と新が混ざり、人々が心通わせる場に寄り添う光」をコンセプトに掲げた。建物本来の美しさや、敷地が持つ豊かな魅力を尊重し、手を加え過ぎず繊細かつ自然なデザインは、景色・風・音・文化に包まれ一期一会の体験ができる宿となった。

講評:

 西伊豆の古民家を魅力ある宿泊施設として再生するために、細かく心配りされた照明デザインが大きな役割を果たしている。古い施設が新しく優しい光に出会うことに感動した。
 日中に自然光を浴びて輝く外の緑たち。そして薄暮から夜に外と内を結びつける植栽照明。「古美と過ごす価値」「人々が心通わせる場づくり」が事業者や内装設計者との間で丁寧に創られたそうだ。過疎化する街に照明デザインが新たな魅力を与えることの社会性も高く評価した。

(面出薫)

入賞:OMO7_大阪 by星野リゾート

撮影:稲住写真工房

受賞者:
松尾 和生(株式会社日本設計)
大山 直樹(株式会社日本設計)
吉野 弘恵(アカリ・アンド・デザイン)
作品関係者:
事業主:
株式会社星野リゾート
設計・監理:
株式会社日本設計
内装デザイン:
東 環境・建築研究所
湯屋デザイン:
岩田尚樹建築研究所
ランドスケープデザイン:
オンサイト計画設計事務所
施工:
竹中工務店・南海辰村建設共同企業体

作品コンセプト:

 大阪・新今宮エリアという存在感のある立地環境の中で、照明・建築・ランドスケープが融合したデザインにより今までにない「街ナカ」ホテルを創り上げた。都市でありながら非日常性を感じる照明計画をコンセプトに、ファサードの外装膜に溶け込んだ演出照明はプロジェクションマッピングにない鮮やかさや動きを創り出している。夏は花火、秋は舞い落ちる紅葉など日本の四季に応じた演出が訪れる人々を楽しませる空間となっている。

講評:

 新今宮駅前は、観光名所通天閣にも近く大阪を象徴するエリアの一つである。観光ホテルの外観は幾何学パターンの「白い膜」に覆われ、ガーデンエリアから建物内へと続く伝統建築からポップ・モダンを織り交ぜたカジュアル感覚のインテリアまで、トータルにスマートな感覚に溢れている。また、そこかしこに大阪キャラクターとの共存があって、来客を楽しませ惹きつけ、そして、もてなしている。照明計画も多彩であることは言うまでもなく、日が暮れると外観の「白い膜」から内蔵されたLED照明の演出がはじまる。プログラムされた光のドット絵は、周辺の賑わいと協調し、これからの大阪を表出することに貢献する。景観としてプログラムされた世界観を評価することは控えさせていただくが、意欲ある新たな構想計画、試みとして評価したい。

(五十嵐久枝)

審査員特別賞:医療法人 厚生会 福井厚生病院

撮影:川澄・小林研二写真事務所

受賞者:
藤平 真一(株式会社久米設計建築設計室)
奥井 優介(株式会社久米設計電気設備設計室)
山口 高弘(株式会社久米設計電気設備設計室)
作品関係者:
事業主:
林 讓也(医療法人厚生会 福井厚生病院)
電気設計:
小玉 敦(株式会社久米設計環境技術本部)
建築設計:
小方 信行(株式会社久米設計医療福祉設計室)

作品コンセプト:

 「あたりまえの日々に寄り添いたい」という思いを掲げ、地域のかかりつけ病院として歩み続けてきた福井厚生病院の移転新築計画である。自然然豊かな立地に調和する丸みを帯びた建築デザインを活かし「雪洞(ぼんぼり)」のような温かみのある照明計画とした。患者さんが長い時間を過ごす病室や透析室は優しく、情報が飛び交うスタッフエリアは機能的に、夜は安らぎと癒しの象徴として、シーン毎の丁寧な光環境デザインに配慮した。

講評:

 丸みを帯びた建築デザインは柔らかな印象を与え、病室の天井と壁面とのエッジの消失させて空間に広がりを与える。長期長時間滞在者に配慮した柔らかな空間を演出する照明が評価された。天窓光が幕天井に落とす光陰の見えや、通路コーニス照明がその長手方向と重なる視線で眩しいなどの局所的課題は数点あるが、複合多用途空間が入組む病院建築でありながら、全体にわたり主たる視点では柔らかな良好な照明環境にまとめられている。

(原直也)

2022年 照明デザイン賞 講評

総評

応募総数は45作品で1~2次審査を経て現地審査の対象となったのは9作品であった。審査員が現地に赴き応募者の熱心な説明を受けながら現地審査を行った。その後の最終審査では各審査員の報告を受け活発な議論が交わされた後、9項目からなる評価項目により採点及び審議が行われ、今年は8作品が受賞の栄誉に浴することになった。受賞作品はどれも当該空間での新たな光にチャレンジする姿勢が見え、美しい光の先にある次代の照明のあり方を示唆するものであった。

(審査員長 富田泰行)

建築、空間の設計の中で照明ほど最後の完成まで正解がわからず、設計の難しいものはないと実感している。光は物資的なものではなく、相対的に決定される状態なので、とても繊細で微妙な匙加減で大きく効果が変化してしまう。全体の印象としては照明=光がそのプロジェクトにおいて可能性をどれだけ広げられたかということが大切なポイントだったように思う。地域活性に光が大きく貢献した「長門湯本温泉観光まちづくり」「金沢港 加賀五彩を纏う」。光によってその場所の魅力が増すことにより今後多くの人がこの場所を訪れるきっかけを作り出している。最優秀賞の「藤田美術館」は自然光と人工光を織り混ぜたきめ細やかな照明設計により、建築空間の魅力を最大限に活かしている。光が場所、空間などとの融合により新しい価値を生み出してくれることを今回の多種多様な照明プロジェクトの審査を通じて改めて実感した。

(永山祐子)

最優秀賞:藤田美術館

撮影:伊藤 彰(アイフォト)

受賞者:
平井 浩之(大成建設株式会社)
宮本 育美(大成建設株式会社)
作品関係者:
事業主:
藤田 武利(公益財団法人 藤田美術館)
建築設計:
渡邉 智介(大成建設株式会社)
設備設計:
菅原 圭子(大成建設株式会社)
共用部監修:
森 秀人(Lighting M)
展示監修:
会津 寿美子(株式会社トータルメディア開発研究所)

作品コンセプト:

 敷地は大阪市の中心部、明治半ばから大正期にかけて関西経済界で大きな功績を残した藤田傳三郎(1841-1912)の邸宅跡地である。1911年に建設された収蔵庫の老朽化に伴い建替えが決定された。かつて網島一帯が藤田家の大邸宅であった土地の記憶を呼び戻すべく、地域貢献への強い思いのもと、公園や道路との境界に存在していた高い塀を撤去して自由にだれでも出入りできる土間スペースを設けた。イベントや美術品の展示も出来るよう配慮した照明は調色・調光を可能とし多様な利用を想定している。南向きのハイサイドライトから光ダクトを介して取り入れる太陽光は、奥行の深い建物内部に季節・時間毎に移り行く自然を体感できる。夜の照明だけでない昼の光の制御にも注力した。日が暮れると共に浮かび上がる庇は大きな羽のように人々を迎え入れる。新たに人が集う場を作る事でより地域に根差し、街のシンボルとして開かれた美術館を目指す。

講評:

 先ず特筆すべきは、地域に開かれたユニークな施設を象徴するガラス張りで開放的な「土間」と呼ぶエントランスホールだ。「お茶やお団子を食べながら美術を通じて色々な人と交友が持てる場」と言うように、この土間には様々なイベントに対応する照明設備が設計されている。人々を迎え入れるための解放された表情は、南向きのハイサイドライトから差し込む太陽光と夜間のリニアな間接照明により成立している。昼夜共に変化するこの鉛直面照明のディテールが漆喰壁の温かさを十分に表現する。

 このような照明デザインのアイデアは展示室や離れの茶室にも行き渡っている。展示室では旧美術館の木材を再利用したユニークな天井ルーバーが空調・消火・照明設備などを飲み込む景色を創り、茶室には光ダクトを駆使した採光窓なども作られている。

 この積極的で精緻な光のデザインは、建築意匠と照明設備の統合による建築照明デザインの真髄を、余すところなく示すものとして高く評価された。

(面出薫)

優秀賞:金沢港 加賀五彩を纏う

写真提供:石川県金沢港湾事務所

受賞者:
近田 玲子(株式会社近田玲子デザイン事務所)
野澤 寿江(株式会社近田玲子デザイン事務所)
高永 祥(株式会社近田玲子デザイン事務所)
作品関係者:
事業主:
石川県
企画:
石川県土木部港湾課
設計監理:
石川県金沢港湾事務所
建築設計:
石川県土木部営繕課
建築設計:
株式会社浦建築研究所
設備設計:
アルスコンサルタンツ株式会社

作品コンセプト:

 クルーズターミナル新設に伴い、新たな観光資源の創出を目的に計画された金沢港ライトアップのコンセプトは『金沢港 加賀五彩を纏う』。伝統工芸の加賀友禅に用いられる「加賀五彩/古代紫、燕脂、藍、草、黄土」の5色を基本に、湾を囲む様々な施設を光で結び、全長4kmにわたるダイナミックな光の動きと共に港の大きさを実感するプログラムで、夜間に訪れる人の無かった港は地元の人々に愛される新たな名所となった。

講評:

 金沢というと、JR金沢駅の東口側に「加賀百万石」を背景に開けた、北陸の代表的な文化都市というイメージがある。そんな金沢駅の反対側、西口から15分ほどレンタカーを走らせると金沢港が見えてくる。港湾事業の産業地として日本海へ開けた港に、海外からの豪華客船を含む、国際的な観光拠点として整備された照明デザインが評価された。

 金沢の伝統工芸「加賀友禅」の基本的な5色の光で、港湾内を廻る管理主体の異なる施設(クルーズターミナル広場・セメントサイロ・ガントリークレーン・橋・巡視船など)を、幻想的に結ぶことにより、石川県による新たな観光拠点を創出するプロジェクトである。

 施設の竣工後、世界的な新型コロナウイルス感染症の蔓延により、未だ豪華クルーズ客船の来航を果たすことが叶わず、この施設の本来の目的を達することができていないのが残念なことではあるが、既に昼夜の景観を楽しむ姿を見ることができた。更なる展開に期待したい。

(木下史青)

優秀賞:長門湯本温泉観光まちづくり

撮影:下村康典

受賞者:
長町 志穂(株式会社LEM空間工房)
熊取谷 悠里(株式会社LEM空間工房)
木村 隼斗(長門湯本温泉まち株式会社)
作品関係者:
事業主:
江原 達也(長門市長)
全体事業推進:
泉 英明(有限会社ハートビートプラン)
ランドスケープデザイン監修:
金光 弘志(有限会社カネミツヒロシセッケイシツ)
設備設計:
吉田 矢(株式会社綜合計画)
システム設計:
伊藤 貴史(ウシオライティング株式会社)
照明器具設計:
兵藤 真一郎(SD Lighting株式会社)

作品コンセプト:

 衰退した温泉地を公民の強い連携によって再生したプロジェクトで、大規模な土木改修と共に、仕組み作りから活用までを一体的に行っている。照明計画は「絵になる風景・回遊性の創出」をミッションに、温泉地全域での照明制御のもと新旧すべてのエリアをデザインしている。川や緑、既にある橋梁等この地の持つ本来の魅力を活かす夜景づくりを念頭に、季節毎のシーン変化や閑散期対策の演出なども想定した拡張性のある計画である。

講評:

 時代の流れの中で衰退しつつあった温泉地を整備し、魅力的な温泉街とするための公民連携のまちづくりプロジェクトである。その中で夜間景観の整備の重要性が当初から位置づけられ、温泉街全域の照明改修にまで広がったことで、温泉街全域を照明制御することが可能になっている。時間帯や特定日でのプログラム制御では、エリアごとに個々に光の減光や消灯、カラー演出等の制御を行い、温泉街の夜に新たな表情を加えている。

 温泉街に川が流れている景色はよく見られるが、夜になると川や河川域は闇に消えていることが多い。しかしここでは、川には橋の間接光が連なり、護岸の樹木はライトアップされ、飛び石や河川そのものにも光が向けられることで、夜にも「写真を撮りたくなる」「そぞろ歩きしたくなる」気持ちにさせる親水性のある夜間景観が作り出されている点が高く評価された。

(原田武敏)

優秀賞:ZOZO本社屋

撮影:Koji Fujii / TOREAL

受賞者:
中村 拓志(中村拓志&NAP建築設計事務所)
成山 由典(株式会社竹中工務店)
麻田 勝正(株式会社モデュレックス)
作品関係者:
事業主:
株式会社ZOZO
設備設計:
鈴木 宏彬(株式会社竹中工務店)

作品コンセプト:

 西千葉の街中に平屋に近いオフィスをつくり、街と共に成長するオフィスを目指した。街全体をオフィスととらえる「領域型オフィス」を目指し、内外装が連続するデザインにより、街との連続感を創出した。グレアの少ない照明機器を採用し、特徴的な木格子の傾斜屋根の中に納めることで、極力目立たなくさせている。やわらかく温かみのある光により屋根を浮かび上がらせ、地域のシンボルとなる建築として、地域住民に親しまれている。

講評:

 箱型の建物が建ち並ぶ一帯に企業哲学を体現するようなオフィスが姿を現した。平屋に近く親しみのわくスケールの建物は特徴的な勾配屋根が美しいスカイラインを形成している。昼間、うっすらと見える室内の表情が日没とともに浮かび上がりオフィス内のアクティビティが見えてくる。周辺とつながることを意識した企業スタイルが街との共存関係を生み出す。柔らかい布のような天井は木格子で構成され、照明を含む設備類は目立たないよう格子の中に納められている。レギュラーに配置されたスポットライトで水平面照度を確保し、その反射光が柔らかい傾斜天井をほんのり浮かび上がらせている。オフィス内のフリーアクセスを目指し、高低差の大きい不均質な気積の中でも安定した照度を確保できるようデジタル制御に注力している。また100点を超えるアートワークが照明でピックアップされ、オフィス内を彩り空間を活性化しているのも新たなオフィスのあり方であるようだ。

(富田泰行)

入賞:総持寺 客殿ポタラ

撮影:Tamotsu Kurumata

受賞者:
戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
作品関係者:
事業主:
中西 隆英(宗教法人総持寺)
建築設計:
広谷 純弘(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
石田 有作(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
堀部 雄平(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
山田 悦史(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)

作品コンセプト:

 創建1140年の歴史をもつ総持寺の境内に造られた寺カフェ。特徴的な屋根群は、観音様が降り立つとされる補陀洛(ポータラカ)の山並みから着想を得ている。この美しい段状の木天井の造形を、無垢な姿のまま感じられるように、空中に浮かばせた極細のフレームに照明を集約し、空間全体の明るさを確保した。

 住宅に囲まれた高台の上に建つこのカフェは、夜になると行燈のように灯り、行き交う人々に安心感を与えてくれる。

講評:

 主に昼間に利用される施設で、空中に浮かぶ照明フレームには、天井広く覆う木で段状のテクスチャを天窓からの光と協調して引き出すための照明光源と、カフェのテーブルを照らすダウンライト照明光源を高度に集約しており、空間に無粋な設備や配線が現れていない。天井面とフレームの下端が相まって構成する水平面が空間ボリュームの起伏の中に適度な規律を与えており、照明フレームが空間を構成する要素としての役割を担っている。

(原直也)

入賞:高槻市 安満遺跡公園

受賞者:
村井 俊彦(㈱INA新建築研究所 西日本支社)
谷口 桃子(㈱INA新建築研究所 西日本支社)
長町 志穂(㈱LEM空間工房)
作品関係者:
事業主:
高槻市 街にぎわい部 歴史にぎわい推進課
独立行政法人 都市再生機構 西日本支社
建築設計:
北 伸一朗(㈱INA新建築研究所 西日本支社)
照明設計:
熊取谷 悠里(㈱LEM空間工房)

作品コンセプト:

 22ha におよぶ弥生時代の大集落跡を整備した遺跡公園には、再現された居住域を表す環濠や墳墓・水田等と共に、市民が活用できるパークセンターやカフェ、プロムナード、大屋根広場等が点在する。本照明計画はそういった歴史的ランドマークの演出を軸に、利活用を誘発するような建築照明・公共空間照明を目的に応じて丁寧にデザインしている。

 現在は日中から夕刻まで多くの市民でにぎわう高槻市を代表する公園施設となっている。

講評:

 弥生時代の住居跡を示す「環濠」(マウンド)を廻る法面を、LED照明の制御テクニックで浮かび上がらせ、2つの高架式鉄道(JR、阪急電車)から認識される。高槻市の中心に存在する歴史遺産が、現代の市民にとってのアイデンティティを示す空間として創出された。

 ともすれば「負」の広場になりそうな遺跡跡だが、地域住民のみならず、訪問者にとっての観光拠点としても、昼夜をまたいで「生き生き」と使われていることが高評価を得た。

(木下史青)

入賞:新電元工業朝霞事業所

撮影:近代建築社

受賞者:
松本 浩作(有限会社スタイルマテック)
橋本 竜一(株式会社安藤・間)
作品関係者:
事業主:
新電元工業株式会社
建築設計:

株式会社安藤・間
照明設計:

有限会社スタイルマテック

作品コンセプト:

 拡散光で満たされ、季節・時刻・天候など移ろいゆく外部環境の光の変化を身近に感じられるアトリウム空間と、隣接するニュートラルなオフィス空間を一体化し、光の多様性を保ちながら建物全体の一体感を作りだすことがテーマであった。グレアを防ぎ天井に光を拡散させるオフィス照明や、各部の間接照明は概日リズムに沿った運転を行い、アトリウムの自然光となじませつつ明るさ感を連続させ、全体の一体感を生み出している。

講評:

 2つのオフィス棟の中央にアトリウムがあり、アトリウムからも採光が得られている。執務室とアトリウムをつなぐ通路部分も解放されているため、全体に開放感が感じられた。照明は建築デザインを生かすように鉛直面の壁面や階段手摺などに内蔵されているため、器具の存在感を抑えながら必要な明るさが得られている。眩しさを抑えるよう既製品を加工したオフィス照明は、サーカディアン照明として色温度と照度が変化するように制御され、利用者にも配慮されていた。

(福多佳子)

審査員特別賞:Creative Media Lounge

撮影:山内紀人

受賞者:
小林 浩(大成建設株式会社)
勝又 洋(大成建設株式会社)
涌井 匠(大成建設株式会社)
作品関係者:
事業主:
猪里 孝司(大成建設株式会社設計本部)
建築設計:
廣澤 克典(大成建設株式会社)
松岡 弘樹(大成建設株式会社)

作品コンセプト:

 従来の均質な光環境のオフィスとの差別化を図り、健康で自由に働く執務環境を目指した、やさしい光に包まれたワークプレイスである。木枠に照明を組込み、半透明の波板ポリカで挟んだ間仕切壁は、光を拡散し、視線と音を制御し、従業員同士の適度な距離感を保つ。身近な材料を組み合わせることで、超ローコストで、汎用性が高く、誰でも簡単に作ることができるように設計した。

講評:

 内照式パーティションによるオフィス照明の新しい提案である。パーティション側面はポリカーボネートの波板で構成され、その上下にLEDライン照明が内蔵されている。パーティションは丁番で連結されているため、ジグザグの角度によって机の配置にも自由に対応できるようになっている。下側のライン照明では天井面への間接照明効果が得られ、上側のライン照明では机上面の明るさも得られ、パーティションによるタスクアンビエント照明の効果が得られていた。

(福多佳子)

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