総評
応募総数は45件で例年同様に多岐に渡る作品の数々であった。1,2,3次審査を経て選ばれた12件が現地審査の対象となり、各審査員で現地審査を行った。現地審査では応募資料だけでは伝わらない、取巻く環境や効果等を実際に確認しながら関係者の熱心な説明を受けた。最終審査で議論された結果、最優秀賞1件、優秀賞3件、入賞3件、審査委特別賞1件の計8件が受賞した。いずれも時代に即した素晴らしい作品であり、今後のデザインの可能性を示唆するものであった。
(審査員長 松下美紀)
最優秀賞:五島リトリートray

撮影:ナカサ&パートナーズ
- 受賞者:
- 西村 英俊(大成建設一級建築士事務所)
古野 清也(橋本夕紀夫デザインスタジオ)
- 作品関係者:
- 事業主:
- 池田 尚真(双日五島開発株式会社)
- 建築設計:
- 高橋 秀秋(大成建設一級建築士事務所)
- 建築設計:
- 金子 由里子(大成建設一級建築士事務所)
- 建築設計:
- 押川 快(大成建設一級建築士事務所)
- デザインアーキテクト:
- 広谷 純弘(アーキヴィジョン広谷スタジオ)
- デザインアーキテクト:
- 石田 有作(アーキヴィジョン広谷スタジオ)
- 照明設計:
- 川上 和士(モデュレックス)
作品コンセプト:
五島リトリートrayは、長崎県五島市の地域創生を目的に、五島市の魅力を伝える西海国立公園鐙瀬海岸エリアの活性化のシンボルとして計画されたスモールラグジュアリーホテルである。ロビーの壁と天井にはアルミパネルを配し、客室の窓際の壁には鏡を貼ることで目の前に広がる水平線や景色を室内に取り込んでいる。
ロビーの壁面には、吹きガラスのブラケット照明を取り付け、日中は補助的にアルミを照らし、夕暮れ以降は、視覚的に明るさを伝えている。レジンで水盤を表現した中央のテーブルには、満月をモチーフにした照明が仕込まれており、日中は空模様、日暮れは満月の灯が天井のアルミパネルに映り込み、時の移ろいを演出している。客室はポイントだけを照らし、特注のスタンド照明やステンドグラスの間接照明等を目に入る高さに置くことにより、室内が明るく感じられるように考えた。
講評:
静寂と暗闇の中に建つ美しいホテルである。漆黒の闇の中に浮かび上がる星空に、ミニマルな照明デザインで環境に調和したホテルが作られた。ロビーや客室は南側の鎧瀬海岸を、2階のレストランは北側の鬼岳が借景となり、それらを天井や壁に反射させインテリアに取り入れている。特筆すべきは、ロビーに間接照明技法を使用せず、水のモアレをイメージしたガラスグローブのみをペンダントやブラケットライトとして使用し成功させているところである。象徴的な大テーブルには、水盤をイメージした光が天井に反射して月をイメージさせている。このような人のイマジネーションを引き出すアイデアは客室にも行き渡っており、乳白ガラスグローブをスタンドやブラケットライトで使用し、目線に沿った位置にコントロールすることで風景を分断せずに完結させている。この精緻な光のデザインは、リゾートホテルの本来の役割である「居心地の良さ」を表現しており高く評価された。
(松下美紀)
優秀賞:SIMOSE

撮影:平井広行
- 受賞者:
- 岩井 達弥(Lumimedia lab株式会社)
石井 孝宜(Lumimedia lab株式会社)
佐藤 杏恵(Lumimedia lab株式会社)
- 作品関係者:
- 美術館事業主:
- 一般財団法人下瀬美術館
- ヴィラ事業主:
- Shimose A&R株式会社
- 建築設計:
- 株式会社坂茂建築設計
- 構造設計:
- 株式会社KAP
- 設備設計:
- 株式会社森村設計
- ランドスケープ:
- 有限会社アースケイプ
作品コンセプト:
SIMOSEは、美術館とヴィラそしてレストランを瀬戸内海に面した魅力的なランドスケープの中にちりばめた新しいタイプの施設である。瀬戸内海に浮かぶ島々をイメージし「多島美のような風景をつくりだす建築群」をコンセプトとした、色あざやかに光る水盤上の8色の可動展示棟(水に浮かせて移動が可能)が水面およびエントランスと企画展示棟のハーフミラーの外壁に映り幻想的な風景をつくりだしている。
講評:
美術館をメインとした複合施設である、敷地に一歩踏み入れてみると、「反射」が大きなデザインテーマとなっていることに気づく。トレードマークのカラフルな展示室群を海側から見ると、実は施設は一枚のミラーガラスのカーテンウォールの背面に隠れ、消えている。一方で、展示室群はミラーガラスのファサードと水盤により水平にも垂直にも反射され、実像と虚像とが入り混じった不思議な風景を生み出している。さらには、昼間はミラーガラスの反射で存在が消えている諸施設が日暮れと共にうっすらと見え始め、重なり、複雑で現象的な風景を刻一刻と変化させていく。この建築は、時系列の反射のシークエンスがテーマなのだ。この現象的建築を成立させるには、建築と照明の入念な摺合わせに加え、自然光と人工照明の適切なコントロールが不可欠である。個々の手法は特段の目新しさではなく、全体として照明計画の完成度の高さに照明デザイナーの卓越した手腕を感じさせる作品であった。
(山梨知彦)
優秀賞:福岡大名ガーデンシティ

撮影:SS Co., Ltd. Ueda Shinichiro
- 受賞者:
- 中村 元彦(株式会社松下美紀照明設計事務所)
磯矢 孝(久米設計・醇建築設計共同企業体(株式会社久米設計九州支社))
牧 敦司(久米設計・醇建築設計共同企業体(株式会社醇建築まちづくり研究所)
- 作品関係者:
- 事業主:
- 大名プロジェクト特定目的会社(代表企業 積水ハウス株式会社)
- 建築設計:
- 安東 直(株式会社久米設計 設計本部)
- 建築設計:
- 柳下 元宏(株式会社久米設計九州支社)
- 建築設計:
- 濱邊 信晴(株式会社久米設計九州支社)
作品コンセプト:
規制緩和で民間投資を募る福岡市の施策「天神ビッグバン」により開発された複合施設である。建築の特徴を際立てる光のコントラストと穏やかな光のグラデーションをコンセプトに、人を引き込む光の繋がりをデザインした。雁行する建築の特徴を照らして、博多湾の客船や空路からの視線も考慮した夜景を創出している。穏やかな光環境の中に多くの人が広場に集まり、夜を積極的に楽しむ姿が、都心のオアシスとして日常の光景となっている。
講評:
「天神ビッグバン」と称し都市開発を進める福岡市のランドマークの一つとなった建物である。旧小学校校舎再利用を含めた開発事業であり、高層部ホテルを含んだ複合ビルとそれら建物に囲まれた芝生空間が主な構成である。ガラスカーテンウォール建物のライトアップにはガラス素材故の難しさがあるが、当該プロジェクトでは大胆な門型形状建物外郭ガラス素材を照明設計者と建築設計者が意見を交わした上で使い分けている。ビル外郭部には高反射ガラスを用い、建物をくぐり抜けるゲート内側部分にはその形状を強調するライン照明に加え比較的透過性のあるガラスを用い、昼夜の光の溜り方に変化を設けることでランドマーク性向上に成功している。建物に囲まれた都会のオアシス的芝生空間へは夜間ビル上層部からほのかな投光がある。既に市民の認知を受け、昼間のみならず夕刻以降も人が集う空間となっていることが印象的である。このプロジェクトは都市開発構想を受け建築設計者が目指した理念に照明が呼応しそれを支えた事例である。
(水馬弘策)
優秀賞:BOOKMARK STORAGE

撮影:Phenomenon Lighting Design Office Inc.
- 受賞者:
- 永津 努(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)
山﨑 健太郎(株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ)
- 作品関係者:
- 事業主:
- DMG森精機株式会社
- 建築設計:
- 村田 翔太郎(株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ)
- 照明設計:
- 大西 彩生(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)
作品コンセプト:
JR関西本線新堂駅の駅前整備計画のひとつ。知と芸術の収蔵庫として建てられた図書館。
葡萄栽培を皮切りに集落をつくるようにゆっくりと広がり農・文化・生活が折り合わさった農村景観の再構築を目指している。地上階は居心地のよい広場、2階は本棚が立ち並ぶ屋根裏のような書庫が広場を包む。「陽光・月光 移ろいの陽だまりを楽しむ広場」をコンセプトに、お気に入りの本を手に、陽だまりから月影に移ろう時間を楽しみ、地の風に揺られる心地良い場が生まれた。
講評:
農村景観の再構築を目指し、屋外の駅前広場と繋がる開放的な下層の屋内広場の上に、落ち着きのある上層の書庫を備える施設である。昼光がトップライトから上層を貫き主として下層を照らし、上層の書架は低色温度ブラケットで照明する。夜は昼光に代わり低色温度スポットライトが照明する中、アート作品ごとに設置した照明が高色温度でも、低い内装明度ゆえに調和が保たれる。昼夜共に照明が、特に光色の違いを空間構成や内装と連携して上手く整理したデザインである。上下層、屋内外全体でデザインが統一されたブラケットは、その配置が空間に適度な規律とリズム、統一感を与える。低層部に配置されるアート作品は外部からも見られるが、道路併設照明が本作品の見えを損なう点は惜しい。本作品は集落の照明空間の指針を示す役割を十分に果たしており、今後は本作品を基軸として集落全体に質の高い照明空間、夜間景観が形成され維持されることに期待したい。
(原直也)
入賞:代々木参宮橋テラス

撮影:Fumito Suzuki
- 受賞者:
- 戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
栗田 実(株式会社竹中工務店)
- 作品関係者:
- 事業主:
- 橘 明宏(株式会社竹中工務店)
- 建築設計:
- 平岡 麻紀(株式会社竹中工務店)
- 設備設計:
- 村瀨 澄江(株式会社竹中工務店)
- 設備設計:
- 松岡 竜也(株式会社竹中工務店)
- 設備設計:
- 吉田 明佑美(株式会社竹中工務店)
- 照明設計:
- 辻 知花(有限会社シリウスライティングオフィス)
作品コンセプト:
都心の閑静な住宅地に佇む4階建ての集合住宅。
ロの字型の住棟に囲われた緑豊かな中庭は、日中は吹抜を通して爽やかな自然光が降り注ぎ、日没後は温もりを感じさせる植栽や緑影、間接照明の陰翳で満たされる。ダウンライトや手摺照明に頼らず、特注支柱付きスポットライトによりRC造の無垢な天井面そのものを柔らかく美しく照らす光環境は、心地良くも洗練された情景を生み出している。
講評:
ユニークな形状の中庭にはたっぷりの植栽と有機的な通路。それらが間接光と植物の葉影のデザインによって独特の雰囲気を醸し出している。通路の天井にはダウンライトなどの照明が一切ない。間接光のみで10ルクスの適正照度を与えていた。
各住戸には垂直の間接光が門灯のようにデザインされている。その温かい光が散在する景色は、新しい集住の在り方を象徴している。私達が現地視察した真冬には、期待に応えるだけの葉陰を演出していなかったことが多少残念であった。
(面出薫)
入賞:B Residence

撮影:井上玄
- 受賞者:
- 井上 玄(株式会社GEN INOUE)
吉野 翔太(株式会社GEN INOUE)
久保 隆文(株式会社Mantle)
- 作品関係者:
- 照明設計:
- 吉清 紫(株式会社Mantle)
- 照明設計:
- 阿部 実(株式会社Mantle)
- 施工会社:
- 山口 脩平(大同工業株式会社)
- 電気工事:
- 鷲見 彰一(スミ電機工業有限会社)
作品コンセプト:
山麓部に建てられた別荘。南側に近接する隣家を隠しながら雄大な山をパノラマで眺められる景色を主役とし、東西の空間の連続性や抜けも味わえる。LDKの東西に長い軸を設定し、大小の相似形の空間を交互に配した空間構成はワンルームに変化をもたらし、見える範囲を狭めてトンネル状の空間の先に景色を切り取った。軸を強調する床のライン照明、現し天井を局所的に照らすなど手法を使いわけ、直感的な光環境の美しさに拘った。
講評:
湯河原の別荘エリアに建つB Residenceは、隣地の建物自体は見えないように建築および窓の配置が工夫され、周辺の自然景観を借景として取り込んでいる。照明計画は建築のコンセプトを生かすように検討され、室内照明の映り込みによる空間の広がりが感じられた。また借景を取り込んだ建築の構成は、夜間は漏れ光によってその特徴をより強調する効果も得られていた。空間の用途に応じて設置された間接照明は、別荘にふさわしい居心地の良い雰囲気をもたらしていた。
(福多佳子)
入賞:水戸市民会館

撮影:株式会社 ライティング プランナーズ アソシエーツ
- 受賞者:
- 窪田 麻里(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
山本 幹根(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
木村 光(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
- 作品関係者:
- 事業主:
- 泉町1丁目北地区市街地再開発組合
- 建築設計:
- 伊東豊雄建築設計・横須賀満夫建築設計事務所共同企業体
- 家具デザイン:
- 藤江和子アトリエ
- テキスタイルデザイン:
- 安東陽子デザイン
- サイン計画:
- 廣村デザイン事務所
- ランドスケープ:
- GAヤマザキ
- 電気設備設計:
- 大瀧設備事務所
作品コンセプト:
豊かな共用スペースと大中小ホール、イベント広場、展示室、和室などを有するこの複合文化施設では、朝から夜に至り変化する照明シーンのもと、様々な世代の人たちが好きな空間で心地よく過ごせる光環境づくりを目指した。
4層吹抜けの“やぐら広場”の照明は、木架構の温かみと力強さを表現しながら、屋外広場のような穏やかさとフレキシビリティを両立させている。また施設の中核となるホール外郭壁面を照らしだし、外周部には特注スタンド照明を計画。外観に内部のアクティビティを表出させ、水戸の街並みに活気ある風景を創り出すことも意識している。
講評:
水戸市民会館の移転、建て替え計画は、ヒトを集客するだけでなく、建築の特徴をいかした照明計画によって、エリアの夜間景観の価値を高める効果ももたらしている。22時まで通り抜け可能なやぐら広場では、調色調光用照明器具によって4つの照明シーンが提供され、時間帯ごとに訪れる楽しみも得られていた。ホール自体で催事がなくてもやぐら広場やミーティングラウンジのテーブルで、夜間でも勉強している学生が多く、市民に愛されている様子が良く分かる施設であった。
(福多佳子)
審査員特別賞:住友ビルディング エントランス改修

撮影:Akira Ito(aifoto)
- 受賞者:
- 戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
永田 爽寧(有限会社シリウスライティングオフィス)
- 作品関係者:
- 事業主:
- 三井住友信託銀行株式会社,住友商事株式会社
- 建築設計:
- 喜多 主税(株式会社日建設計)
- 建築設計:
- 高畑 貴良志(株式会社日建設計)
- 建築設計:
- 円田 翔太(株式会社日建設計)
- ランドスケープ設計:
- 岩田 友紀(株式会社日建設計)
作品コンセプト:
オフィスビルエントランスの改修計画。
大通りに面する二層吹抜の格子壁では、象徴的に照らし出された木格子がライトアップした植栽とともに行き交う人々の目を奪う。通路では、細やかな格子目の陰影美と水平方向の光の広がりを感じさせる平面格子天井から、垂直方向への光の広がりを感じさせる立体格子天井へと滑らかに繋げることで、来訪者は心地よく変化する景色を体験できる。
講評:
オフィスビルエントランスの天井改修計画。大阪中之島沿いの大通りに面するエントランスでは木格子壁が組み上げられ、そこから南北を貫く通路天井にも木格子が施されている。エントランスに入った瞬間、大阪ビル群のオフィスビルではない雰囲気である。木格子の天井、壁が印象的に浮き上がり、吹抜の格子天井のDLによって樹木が照らされ床面に緑陰が広がっている。伺った時が夕刻だったこともあり大勢の方が風除室から外に出る度に緑陰が風で揺らぎ、心地よい空間であった。
(吉野弘恵)