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照明デザイン賞受賞者一覧

照明デザイン賞は、光を素材とした、優れたデザイン的内容を持ち、創意工夫に満ちた作品を顕彰するものであり、近年、国内に竣工した空間に対する光環境や照明デザインにおいて、社会的、文化的見地からも極めて高い水準が認められる独創的なもの、或いは新たな照明デザインの可能性を示唆するもので、時代を画すると目される優れた作品を称え表彰するものです。

2025年 照明デザイン賞 講評

総評

 本年は52件の応募から1次・2次審査を経て、3次審査で選出された12件に対し、最低2名による審査委員による現地審査を行った。その情報は最終審査会で全員に共有され、以下8件が受賞となった。
 今回は大都市以外の公共施設の意欲的な作品が見られ、照明デザインの普及を実感するとともに、若手デザイナーの活躍も目立ち新たな世代の成長もうかがえた。
 本結果が照明デザインの新たな地平を議論する契機となることを期待するものである。

(審査員長 岩井達弥)

最優秀賞:第2名古屋三交ビル

撮影:鈴木 文人

受賞者:
戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
辻 知花(有限会社シリウスライティングオフィス)
作品関係者:
事業主:
中 紀代子(三交不動産株式会社)
建築設計:
伊藤 貴弘(株式会社竹中工務店)
設備設計:
小林 直道(株式会社竹中工務店)

作品コンセプト:

 繁華街に建つオフィスビルのエントランスを兼ねた屋内広場空間。豊かな木に覆われた大空間は、日中、爽やかな外光が注ぎ、夜になると照明が灯り、山間から覗く月を思わせる美しい光の陰影に包まれる。ここは、一般の人に開放され、誰もが休憩を取ることが出来る無料の憩いの場である。正面に大きく広がる木ルーバー壁面を、水平方向の投光によって大胆に照らし出し、壁面の空隙部には、木ルーバー間に超小型アップライトを設けて、繊細な凹凸と曲線を浮かび上がらせた。EVホール前室に設けられた波紋模様の鏡面パネルは、その性質を活かして、複数の角度からなるダウンライティングの反射光によって床面に光の波紋をつくり出し、広場の木材が育まれた山に流れるせせらぎを可視化した。気候変動の悪影響で屋外の憩いの場が機能しづらくなった近年、快適な環境に保たれた屋内型広場が、新しい形の居場所として親しまれている。

講評:

 本作品は、都市の喧騒の中にありながら、企業の地元である三重の自然を想起させる室内型広場空間の魅力を、照明によって巧みに表現したものである。
 木ルーバーで構成された天井と壁面に対し、スポットライトが生み出す陰影が、空間に奥行きと広がりをもたらすと同時に、屋外からの視線に対しても雄大さを感じさせている。さらに、木ルーバーの先端に仕込まれた超小型アップライトの連続した光が、まるで絵画に描かれた山際のような光景を浮かび上がらせており、非常に印象的であった。
 一方、この広場空間内に位置するオフィスへのエントランスでは、鏡面パネルに反射した光が床面に波紋を描き、三重の山あいを流れる清流の情景を想起させることで、空間内での存在感を際立たせている。
 公共の広場という空間用途に対し、建築意匠と照明デザインの見事なコラボレーションにより、求められる機能性や快適性に加え、地域性や情緒性まで満たした最優秀賞にふさわしい作品である。

(岩井達弥)

優秀賞:温故創新の森 NOVARE

撮影:エスエス

受賞者:
牧住 敏幸(清水建設株式会社)
小林 央和(清水建設株式会社)
石井 孝宜(Lumimedia lab株式会社)
作品関係者:
建築設計:
小川 浩平(清水建設株式会社)
建築設計:
稲葉 秀行(清水建設株式会社)
電気設備設計:
宮本 和明(清水建設株式会社)
電気設備設計:
野崎 紘平(清水建設株式会社)
照明デザイン:
田部 武蔵(Lumimedia lab株式会社)
照明デザイン:
佐藤 杏恵(Lumimedia lab株式会社)

作品コンセプト:

 「超建設」のマインドセットのもと、事業構造・技術・人財のイノベーションを推進する拠点「温故創新の森 NOVARE」を整備した。核となる情報発信施設をはじめ、研究、体験・研修、歴史資料展示、旧渋沢邸の5施設が相互に連携し、「進取の精神」を育む場を目指している。建築の考え方「5つの機能の複合」に基づき、照明は「時代、未来、技術、人々、意匠をつなぐ5つの光」とし、多様な価値観を受容する光環境を創出した。

講評:

 日本を代表するスーパーゼネコン・清水建設が、その前身である清水組からの歴史と自ら培ってきた建設技術を次世代へと受け継ぐ社会的な責務を担い、「温故創新 NOVARE」という旗印のもとに作りあげた大規模施設であり、とくに企業理念に基づく社会的な意義を表現した照明デザインが評価された。
 まず快適に働くためのオフィス空間への提言として、木工架構造の大屋根を架け渡した空間内では、空調・電源・照明をパーソナルにコントロール可能とすることにより、新しい「働き方」を実現していること。また従来の照度を確保するだけの工場から、より創造的な 研究・技術スタッフが集い・働くラボの姿が垣間見え、技術に裏付けられた設計上の問題を、大型構造実験施で初心所員とも共有する大型構造実験施設を結ぶ空間がある。そして「旧渋沢邸」を含むアーカイブ・展示空間、周辺との夜間景観への配慮など、丁寧な施工技術と照明の詳細設計を随所に見ることができた。

(木下史青)

優秀賞:NX武道館

撮影:鈴木 文人

受賞者:
戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
永田 爽寧(有限会社シリウスライティングオフィス)
作品関係者:
事業主:
竹添 進二郎(日本通運株式会社)
建築設計:
広谷 純弘(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
建築設計:
堀部 雄平(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
建築設計:
福尾 智(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
建築設計:
小林 高行(三井住友建設株式会社一級建築士事務所)
建築設計:
米谷 佑児(三井住友建設株式会社一級建築士事務所)

作品コンセプト:

 新築されたNXグループの武道場。礼の精神を重んじながらも、開放的で心地よい空間のもと、競技者が集中できる環境づくりを目指した。木格子梁に覆われた武道場は、格子梁上に設置したLEDテープライトで天井を均一に照らし上げ、柔らかな間接光で満たした。格子梁の中央上部に設置したグレアレスダウンライトは、光が梁にかかることなく、競技における十分な照度を確保し、影ができにくく、均斉度の高い光環境を実現している。

講評:

 本施設は剣道など武道を鍛錬するための企業の施設として建設された。武道の精神を体現するべく外観、内装ともに質実剛健の趣であり、内部は木材を主体としながらコンクリート仕上げの壁面がコントラストをなす。全ての照明設備は目立たないように隠しこまれており、細心の注意が払われた納まりは建築素材の持つ力を一層引き立てている。
 天井の高い剣道場は、精神を統一し集中力を最大限に発揮できるよう、眩しさを感じさせずノイズのない光のみが空間を満たしている。器具位置と照射角度を微調整することで、競技者と観戦者にとって必要十分な水平面、鉛直面照度を確保している。昼間は外光も取り込み、木の構造体と天井を照らすことで空間の伸びやかさと広がりを感じさせる。地域に開かれた外構は、夜間には柔らかな内部からの漏れ光と外壁を照らす照明によって道行く人々に安心感をもたらしている。ミニマムかつ必要十分な照明で構成された秀作である。

(飯塚千恵里)

優秀賞:共英製鋼株式会社 山口事業所新事務所棟

撮影:宮下 信顕(エムアールスタジオ)

受賞者:
宮下 信顕(エムアールスタジオ株式会社 一級建築士事務所)
三原 敦子(コイズミ照明株式会社 LCR大阪)
作品関係者:
事業主:
共英製鋼株式会社 山口事業所
建築設計:
徳永 真彦(株式会社奥村組 西日本支社 一級建築士事務所)
建築設計:
永吉 哲也(株式会社奥村組 西日本支社 一級建築士事務所)
設備設計:
高須 隆博(株式会社奥村組 西日本支社 一級建築士事務所)
建築設計:
広瀬 由佳梨(エムアールスタジオ株式会社 一級建築士事務所)
照明設計:
浜本 誠治(コイズミ照明株式会社)

作品コンセプト:

 大手電炉メーカー・共英製鋼の山口事業所新事務棟。「リサイクル鉄の宇宙に包まれるオフィス」をテーマに、鉄の再生過程を建築として象徴的に表現している。インテリアには山形鋼や鉄筋を仕上材として活用し、バーコードやQRコードをモチーフとした空間構成を展開。照明デザインでは、これらのデジタルパターンを三次元化し、光によって動きと奥行きを生み出すことで、企業のアイデンティティと未来への進化を可視化している。

講評:

 一度役割を終えた鉄の廃棄物を溶かし、鉄鋼製品へ再生する工場の敷地に建つオフィスと厚生施設である。外観は鉄のピレット材をデザインテーマに、黒・グレー・白のカラーで構成され、瀬戸内海の自然光の移り変わりを優しく反映させている。建物の中に入ると、天井、壁、手すり、サインに至るまで再生鉄鋼で構成されており、建物そのものがショールームのようである。バーコードパターンで構成された鋼材と調和した空間が、未来的で且つユニークなデザインとして企業のブランドアイデンティティを可視化させている。個々の照明手法に目新しさはないが、垂直な鉄材に沿ったシームレスなライン照明の構成が見事に調和している。またこの建物の象徴となる階段の吹抜けには、自社のQRコードにインスピレーションされた再生鋼材レリーフが約20mを貫き、それに沿ってランダムなライン照明が光り輝いている。こだわり抜いた素材と光の融合が高く評価されての受賞となった。

(松下美紀)

入賞:黎明小橋

撮影:ebi_times

受賞者:
星野 裕明(株式会社ホシノアーキテクツ)
岡安 泉(株式会社岡安泉照明設計事務所)
作品関係者:
事業主:
山本 晴智(勝どき東地区市街地再開発組合)
管理者:
中央区
橋梁設計:
小野 秀平(清水建設株式会社)

作品コンセプト:

 朝潮運河をまたぐ黎明小橋は勝どきと晴海エリアを繋ぐ新しい動線としてこの場所を明るく照らすとともに、屋形船と呼応する東京の歴史的な夜景を作り出している。水面に波打つ柔らかい曲線デザインがおだやかな波の姿を表現し、照明が水面に映りこむことでさらに周囲に明るい環境を作り出した。三次元的に組まれた部材の上下で照明のカラープログラムを変えることで時間、曜日、季節によって違った表情が楽しめる演出を試みた。

講評:

 東京都中央区の「勝どき」と「晴海」の、高層オフィス棟とタワーマンションが立ち並ぶ、振興の開発エリアの運河を渡る、歩行者専用の橋梁の象徴的な造形性と照明が評価された。ともすれば橋の構造を際立たせるデザインになりがちなところを、優美な曲線のデザインにまとめている。現在、橋の管理は中央区へと引き渡され、ゆっくりとした光の変化を見せており、周辺環境と調和する場として、今後の更なる開発のあり様が期待される。

(木下史青)

入賞:SAGAサンライズパーク+栄光橋+佐賀市文化会館西側広場

撮影:KOUJI OKAMOTO

受賞者:
岡本 賢(Ripple design)
谷川 千晶(lino)
作品関係者:
発注者:
佐賀県 SAGAサンライズパーク整備推進課
発注者:
佐賀県 県土整備部 道路課
発注者:
佐賀市 地域振興部 歴史・文化課
トータルデザイン及び監修・デザイン監理統括(SAGAサンライズパーク、国道263号・ポケットパーク、栄光橋、佐賀市文化会館西側広場):
西村 浩(株式会社 ワークヴィジョンズ)
設計全体監修(SAGAサンライズパーク):
永廣 正邦(株式会社 梓設計)
設計統括(SAGAサンライズパーク):
渡邉 和幸(株式会社 梓設計)
建築設計統括(SAGAサンライズパーク):
加野 正知(株式会社 梓設計)
建築設計監理(SAGAサンライズパーク/SAGAアリーナ):
津波 伸助(株式会社 梓設計)
建築設計監理(SAGAサンライズパーク/SAGAアリーナ):
池田 敬一郎(株式会社 梓設計)
建築設計監理(SAGAサンライズパーク/SAGAアクア):
外山 博文(株式会社 梓設計)
建築設計監理(SAGAサンライズパーク/SAGAアクア):
三原 季晋(株式会社 三原建築設計事務所)
建築設計監理(SAGAサンライズパーク/SAGAスタジアム):
中原 敏晴(株式会社 石橋建築事務所)
建築設計監理(SAGAサンライズパーク/SAGAスタジアム):
山田 絵里(株式会社 石橋建築事務所)
建築設計監理(SAGAサンライズパーク/ペデストリアンデッキ):
小引 寛也(株式会社 小石川建築ノ小石川土木)
建築設計監理(SAGAサンライズパーク外構/佐賀市文化会館西側広場):
上出 竜司(パシフィックコンサルタンツ 株式会社)
建築設計監理(SAGAサンライズパーク外構/佐賀市文化会館西側広場):
石川 典貴(株式会社 小石川建築ノ小石川土木)
電気設備設計監理(SAGAサンライズパーク):
椎葉 夏子(株式会社 梓設計)
橋梁設計統括(栄光橋):
橋本 努(パシフィックコンサルタンツ 株式会社)
橋梁デザイン・橋梁設計(栄光橋):
野中 秀一(パシフィックコンサルタンツ 株式会社)
設計監理(佐賀市文化会館西側広場):
野中 毅(株式会社 石橋建築事務所) ※設計当時

作品コンセプト:

 SAGAサンライズパーク・栄光橋・佐賀市文化会館西側広場は、2024年に佐賀県で開催された「SAGA2024国スポ・全障スポ」を契機に、新たな価値を創造するエリアとして一体的に整備された。県と市、建築・土木の管理区分、分離発注された設計者・施工者といった数多くの垣根を超え、統一感ある景観をつくりあげた。夜間もスポーツを楽しみながら回遊できるようペデストリアンデッキの手すり照明がエリア全体を「ツナグ(繋ぐ)光」として機能し、イベント開催時は外観照明演出も変化し訪れる人を楽しませる。

講評:

 当該計画は区画開発規模に及ぶ内容であり、施設機能としても地域活性化要因となり得る複合性を誇っている。隣接する各施設を繋ぐペデストリアンデッキにはシームレスな手摺照明を用い、穏やかで安心感ある回遊効果を現代的に創出している。大胆な建築意匠に呼応する外構照明は、寡黙ながらも都市のランドマーク形成に成功しており、リズム感のある1階列柱照明は、躍動的なアリーナ施設への期待感ある導入演出として印象に残った。

(水馬弘策)

入賞:NOT A HOTEL KITAKARUIZAWA IRORI

受賞者:
須磨 哲生(NOT A HOTEL株式会社)
高橋 翔作(株式会社ノサイト)
作品関係者:
事業主:
NOT A HOTEL株式会社
設計施工:
前田建設工業株式会社
ランドスケープ:
株式会社YardWorks

作品コンセプト:

 浅間山麓の広大な森に佇む宿泊施設。木材とガラスを基調とした建築に、自然光の移ろいと調和するIoT照明を組み合わせ、各空間に最適な光環境を創出している。様々な用途に応じた照明シーンの切り替えや室温、サウナの温度調整まで、すべてをスマホやタブレットから直感的に操作できる。スイッチレスな設計により、建築の美しさと機能性が共存する快適な宿泊体験を実現した。

講評:

 大自然に浸りながら囲炉裏での団欒や半露天風呂、サウナを楽しむ空間を持つ居住空間である。各体験に適した異なるボリュームを持つ空間の相互が、また自然とのつながりが、木材とガラスの壁面により適切に関係づけられる。それら関係を、夜は間接照明と外構照明で屋内外の景色を柔らかく魅せ、各体験に必要な光をダウンライトで確保し、きめ細やかにデザインした点、昼夜に適した照明をIoT技術で容易に可変し制御する点などが評価された。

(原直也)

審査員特別賞:Toyota Technical Center Shimoyama 車両開発棟・来客棟

撮影:TOREAL/藤井浩司

受賞者:
加藤 久樹(株式会社加藤久樹デザイン事務所)
牧村 将吾(株式会社竹中工務店)
中屋 隆史(株式会社竹中工務店)
作品関係者:
事業主:
前田 京美(トヨタ自動車株式会社)

作品コンセプト:

 世界へ「もっといいクルマ」を発信するための研究開発施設。開発の拠点となる“車両開発棟”と社外パートナーとの協業や外部発信を行う“来客棟”の2棟で構成される。企業の起源である紡織やモータースポーツから想起される「線(糸・ロード)」を光で表現し、明るさ確保の機能を兼ねつつ地場の間伐材を用いた構造架構や壁面等を象徴的に照らしだしている。施設全体の照明計画を通して機能性と意匠性の高次元での両立を目指した。

講評:

 建築はTOYOTAの車づくりの精神を地場の木材や土などを用い、多様なデザインで空間化した力作である。そしてそこに施された照明デザインが建築と連続し、空間に総体としての魅力を創出している。特に中央の吹抜空間の繊細な木構造と計算された照明デザインにおいては、互いに補完しつつ美しく昇華したレベルに至っている。また、特にテクニカルな機能の空間以外は調光行わないという厳しい条件を克服するための努力も評価したい。

(広谷純弘)

2024年 照明デザイン賞 講評

総評

 応募総数は45件で例年同様に多岐に渡る作品の数々であった。1,2,3次審査を経て選ばれた12件が現地審査の対象となり、各審査員で現地審査を行った。現地審査では応募資料だけでは伝わらない、取巻く環境や効果等を実際に確認しながら関係者の熱心な説明を受けた。最終審査で議論された結果、最優秀賞1件、優秀賞3件、入賞3件、審査委特別賞1件の計8件が受賞した。いずれも時代に即した素晴らしい作品であり、今後のデザインの可能性を示唆するものであった。

(審査員長 松下美紀)

最優秀賞:五島リトリートray

撮影:ナカサ&パートナーズ

受賞者:
西村 英俊(大成建設一級建築士事務所)
古野 清也(橋本夕紀夫デザインスタジオ)
作品関係者:
事業主:
池田 尚真(双日五島開発株式会社)
建築設計:
高橋 秀秋(大成建設一級建築士事務所)
建築設計:
金子 由里子(大成建設一級建築士事務所)
建築設計:
押川 快(大成建設一級建築士事務所)
デザインアーキテクト:
広谷 純弘(アーキヴィジョン広谷スタジオ)
デザインアーキテクト:
石田 有作(アーキヴィジョン広谷スタジオ)
照明設計:
川上 和士(モデュレックス)

作品コンセプト:

 五島リトリートrayは、長崎県五島市の地域創生を目的に、五島市の魅力を伝える西海国立公園鐙瀬海岸エリアの活性化のシンボルとして計画されたスモールラグジュアリーホテルである。ロビーの壁と天井にはアルミパネルを配し、客室の窓際の壁には鏡を貼ることで目の前に広がる水平線や景色を室内に取り込んでいる。
 ロビーの壁面には、吹きガラスのブラケット照明を取り付け、日中は補助的にアルミを照らし、夕暮れ以降は、視覚的に明るさを伝えている。レジンで水盤を表現した中央のテーブルには、満月をモチーフにした照明が仕込まれており、日中は空模様、日暮れは満月の灯が天井のアルミパネルに映り込み、時の移ろいを演出している。客室はポイントだけを照らし、特注のスタンド照明やステンドグラスの間接照明等を目に入る高さに置くことにより、室内が明るく感じられるように考えた。

講評:

 静寂と暗闇の中に建つ美しいホテルである。漆黒の闇の中に浮かび上がる星空に、ミニマルな照明デザインで環境に調和したホテルが作られた。ロビーや客室は南側の鎧瀬海岸を、2階のレストランは北側の鬼岳が借景となり、それらを天井や壁に反射させインテリアに取り入れている。特筆すべきは、ロビーに間接照明技法を使用せず、水のモアレをイメージしたガラスグローブのみをペンダントやブラケットライトとして使用し成功させているところである。象徴的な大テーブルには、水盤をイメージした光が天井に反射して月をイメージさせている。このような人のイマジネーションを引き出すアイデアは客室にも行き渡っており、乳白ガラスグローブをスタンドやブラケットライトで使用し、目線に沿った位置にコントロールすることで風景を分断せずに完結させている。この精緻な光のデザインは、リゾートホテルの本来の役割である「居心地の良さ」を表現しており高く評価された。

(松下美紀)

優秀賞:SIMOSE

撮影:平井広行

受賞者:
岩井 達弥(Lumimedia lab株式会社)
石井 孝宜(Lumimedia lab株式会社)
佐藤 杏恵(Lumimedia lab株式会社)
作品関係者:
美術館事業主:
一般財団法人下瀬美術館
ヴィラ事業主:
Shimose A&R株式会社
建築設計:
株式会社坂茂建築設計
構造設計:
株式会社KAP
設備設計:
株式会社森村設計
ランドスケープ:
有限会社アースケイプ

作品コンセプト:

 SIMOSEは、美術館とヴィラそしてレストランを瀬戸内海に面した魅力的なランドスケープの中にちりばめた新しいタイプの施設である。瀬戸内海に浮かぶ島々をイメージし「多島美のような風景をつくりだす建築群」をコンセプトとした、色あざやかに光る水盤上の8色の可動展示棟(水に浮かせて移動が可能)が水面およびエントランスと企画展示棟のハーフミラーの外壁に映り幻想的な風景をつくりだしている。

講評:

 美術館をメインとした複合施設である、敷地に一歩踏み入れてみると、「反射」が大きなデザインテーマとなっていることに気づく。トレードマークのカラフルな展示室群を海側から見ると、実は施設は一枚のミラーガラスのカーテンウォールの背面に隠れ、消えている。一方で、展示室群はミラーガラスのファサードと水盤により水平にも垂直にも反射され、実像と虚像とが入り混じった不思議な風景を生み出している。さらには、昼間はミラーガラスの反射で存在が消えている諸施設が日暮れと共にうっすらと見え始め、重なり、複雑で現象的な風景を刻一刻と変化させていく。この建築は、時系列の反射のシークエンスがテーマなのだ。この現象的建築を成立させるには、建築と照明の入念な摺合わせに加え、自然光と人工照明の適切なコントロールが不可欠である。個々の手法は特段の目新しさではなく、全体として照明計画の完成度の高さに照明デザイナーの卓越した手腕を感じさせる作品であった。

(山梨知彦)

優秀賞:福岡大名ガーデンシティ

撮影:SS Co., Ltd. Ueda Shinichiro

受賞者:
中村 元彦(株式会社松下美紀照明設計事務所)
磯矢 孝(久米設計・醇建築設計共同企業体(株式会社久米設計九州支社))
牧 敦司(久米設計・醇建築設計共同企業体(株式会社醇建築まちづくり研究所)
作品関係者:
事業主:
大名プロジェクト特定目的会社(代表企業 積水ハウス株式会社)
建築設計:
安東 直(株式会社久米設計 設計本部)
建築設計:
柳下 元宏(株式会社久米設計九州支社)
建築設計:
濱邊 信晴(株式会社久米設計九州支社)

作品コンセプト:

 規制緩和で民間投資を募る福岡市の施策「天神ビッグバン」により開発された複合施設である。建築の特徴を際立てる光のコントラストと穏やかな光のグラデーションをコンセプトに、人を引き込む光の繋がりをデザインした。雁行する建築の特徴を照らして、博多湾の客船や空路からの視線も考慮した夜景を創出している。穏やかな光環境の中に多くの人が広場に集まり、夜を積極的に楽しむ姿が、都心のオアシスとして日常の光景となっている。

講評:

 「天神ビッグバン」と称し都市開発を進める福岡市のランドマークの一つとなった建物である。旧小学校校舎再利用を含めた開発事業であり、高層部ホテルを含んだ複合ビルとそれら建物に囲まれた芝生空間が主な構成である。ガラスカーテンウォール建物のライトアップにはガラス素材故の難しさがあるが、当該プロジェクトでは大胆な門型形状建物外郭ガラス素材を照明設計者と建築設計者が意見を交わした上で使い分けている。ビル外郭部には高反射ガラスを用い、建物をくぐり抜けるゲート内側部分にはその形状を強調するライン照明に加え比較的透過性のあるガラスを用い、昼夜の光の溜り方に変化を設けることでランドマーク性向上に成功している。建物に囲まれた都会のオアシス的芝生空間へは夜間ビル上層部からほのかな投光がある。既に市民の認知を受け、昼間のみならず夕刻以降も人が集う空間となっていることが印象的である。このプロジェクトは都市開発構想を受け建築設計者が目指した理念に照明が呼応しそれを支えた事例である。

(水馬弘策)

優秀賞:BOOKMARK STORAGE

撮影:Phenomenon Lighting Design Office Inc.

受賞者:
永津 努(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)
山﨑 健太郎(株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ)
作品関係者:
事業主:
DMG森精機株式会社
建築設計:
村田 翔太郎(株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ)
照明設計:
大西 彩生(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)

作品コンセプト:

 JR関西本線新堂駅の駅前整備計画のひとつ。知と芸術の収蔵庫として建てられた図書館。
葡萄栽培を皮切りに集落をつくるようにゆっくりと広がり農・文化・生活が折り合わさった農村景観の再構築を目指している。地上階は居心地のよい広場、2階は本棚が立ち並ぶ屋根裏のような書庫が広場を包む。「陽光・月光 移ろいの陽だまりを楽しむ広場」をコンセプトに、お気に入りの本を手に、陽だまりから月影に移ろう時間を楽しみ、地の風に揺られる心地良い場が生まれた。

講評:

 農村景観の再構築を目指し、屋外の駅前広場と繋がる開放的な下層の屋内広場の上に、落ち着きのある上層の書庫を備える施設である。昼光がトップライトから上層を貫き主として下層を照らし、上層の書架は低色温度ブラケットで照明する。夜は昼光に代わり低色温度スポットライトが照明する中、アート作品ごとに設置した照明が高色温度でも、低い内装明度ゆえに調和が保たれる。昼夜共に照明が、特に光色の違いを空間構成や内装と連携して上手く整理したデザインである。上下層、屋内外全体でデザインが統一されたブラケットは、その配置が空間に適度な規律とリズム、統一感を与える。低層部に配置されるアート作品は外部からも見られるが、道路併設照明が本作品の見えを損なう点は惜しい。本作品は集落の照明空間の指針を示す役割を十分に果たしており、今後は本作品を基軸として集落全体に質の高い照明空間、夜間景観が形成され維持されることに期待したい。

(原直也)

入賞:代々木参宮橋テラス

撮影:Fumito Suzuki

受賞者:
戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
栗田 実(株式会社竹中工務店)
作品関係者:
事業主:
橘 明宏(株式会社竹中工務店)
建築設計:
平岡 麻紀(株式会社竹中工務店)
設備設計:
村瀨 澄江(株式会社竹中工務店)
設備設計:
松岡 竜也(株式会社竹中工務店)
設備設計:
吉田 明佑美(株式会社竹中工務店)
照明設計:
辻 知花(有限会社シリウスライティングオフィス)

作品コンセプト:

 都心の閑静な住宅地に佇む4階建ての集合住宅。
 ロの字型の住棟に囲われた緑豊かな中庭は、日中は吹抜を通して爽やかな自然光が降り注ぎ、日没後は温もりを感じさせる植栽や緑影、間接照明の陰翳で満たされる。ダウンライトや手摺照明に頼らず、特注支柱付きスポットライトによりRC造の無垢な天井面そのものを柔らかく美しく照らす光環境は、心地良くも洗練された情景を生み出している。

講評:

 ユニークな形状の中庭にはたっぷりの植栽と有機的な通路。それらが間接光と植物の葉影のデザインによって独特の雰囲気を醸し出している。通路の天井にはダウンライトなどの照明が一切ない。間接光のみで10ルクスの適正照度を与えていた。
 各住戸には垂直の間接光が門灯のようにデザインされている。その温かい光が散在する景色は、新しい集住の在り方を象徴している。私達が現地視察した真冬には、期待に応えるだけの葉陰を演出していなかったことが多少残念であった。

(面出薫)

入賞:B Residence

撮影:井上玄

受賞者:
井上 玄(株式会社GEN INOUE)
吉野 翔太(株式会社GEN INOUE)
久保 隆文(株式会社Mantle)
作品関係者:
照明設計:
吉清 紫(株式会社Mantle)
照明設計:
阿部 実(株式会社Mantle)
施工会社:
山口 脩平(大同工業株式会社)
電気工事:
鷲見 彰一(スミ電機工業有限会社)

作品コンセプト:

 山麓部に建てられた別荘。南側に近接する隣家を隠しながら雄大な山をパノラマで眺められる景色を主役とし、東西の空間の連続性や抜けも味わえる。LDKの東西に長い軸を設定し、大小の相似形の空間を交互に配した空間構成はワンルームに変化をもたらし、見える範囲を狭めてトンネル状の空間の先に景色を切り取った。軸を強調する床のライン照明、現し天井を局所的に照らすなど手法を使いわけ、直感的な光環境の美しさに拘った。

講評:

 湯河原の別荘エリアに建つB Residenceは、隣地の建物自体は見えないように建築および窓の配置が工夫され、周辺の自然景観を借景として取り込んでいる。照明計画は建築のコンセプトを生かすように検討され、室内照明の映り込みによる空間の広がりが感じられた。また借景を取り込んだ建築の構成は、夜間は漏れ光によってその特徴をより強調する効果も得られていた。空間の用途に応じて設置された間接照明は、別荘にふさわしい居心地の良い雰囲気をもたらしていた。

(福多佳子)

入賞:水戸市民会館

撮影:株式会社 ライティング プランナーズ アソシエーツ

受賞者:
窪田 麻里(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
山本 幹根(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
木村 光(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
泉町1丁目北地区市街地再開発組合
建築設計:
伊東豊雄建築設計・横須賀満夫建築設計事務所共同企業体
家具デザイン:
藤江和子アトリエ
テキスタイルデザイン:
安東陽子デザイン
サイン計画:
廣村デザイン事務所
ランドスケープ:
GAヤマザキ
電気設備設計:
大瀧設備事務所

作品コンセプト:

 豊かな共用スペースと大中小ホール、イベント広場、展示室、和室などを有するこの複合文化施設では、朝から夜に至り変化する照明シーンのもと、様々な世代の人たちが好きな空間で心地よく過ごせる光環境づくりを目指した。
 4層吹抜けの“やぐら広場”の照明は、木架構の温かみと力強さを表現しながら、屋外広場のような穏やかさとフレキシビリティを両立させている。また施設の中核となるホール外郭壁面を照らしだし、外周部には特注スタンド照明を計画。外観に内部のアクティビティを表出させ、水戸の街並みに活気ある風景を創り出すことも意識している。

講評:

 水戸市民会館の移転、建て替え計画は、ヒトを集客するだけでなく、建築の特徴をいかした照明計画によって、エリアの夜間景観の価値を高める効果ももたらしている。22時まで通り抜け可能なやぐら広場では、調色調光用照明器具によって4つの照明シーンが提供され、時間帯ごとに訪れる楽しみも得られていた。ホール自体で催事がなくてもやぐら広場やミーティングラウンジのテーブルで、夜間でも勉強している学生が多く、市民に愛されている様子が良く分かる施設であった。

(福多佳子)

審査員特別賞:住友ビルディング エントランス改修

撮影:Akira Ito(aifoto)

受賞者:
戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
永田 爽寧(有限会社シリウスライティングオフィス)
作品関係者:
事業主:
三井住友信託銀行株式会社,住友商事株式会社
建築設計:
喜多 主税(株式会社日建設計)
建築設計:
高畑 貴良志(株式会社日建設計)
建築設計:
円田 翔太(株式会社日建設計)
ランドスケープ設計:
岩田 友紀(株式会社日建設計)

作品コンセプト:

 オフィスビルエントランスの改修計画。
 大通りに面する二層吹抜の格子壁では、象徴的に照らし出された木格子がライトアップした植栽とともに行き交う人々の目を奪う。通路では、細やかな格子目の陰影美と水平方向の光の広がりを感じさせる平面格子天井から、垂直方向への光の広がりを感じさせる立体格子天井へと滑らかに繋げることで、来訪者は心地よく変化する景色を体験できる。

講評:

 オフィスビルエントランスの天井改修計画。大阪中之島沿いの大通りに面するエントランスでは木格子壁が組み上げられ、そこから南北を貫く通路天井にも木格子が施されている。エントランスに入った瞬間、大阪ビル群のオフィスビルではない雰囲気である。木格子の天井、壁が印象的に浮き上がり、吹抜の格子天井のDLによって樹木が照らされ床面に緑陰が広がっている。伺った時が夕刻だったこともあり大勢の方が風除室から外に出る度に緑陰が風で揺らぎ、心地よい空間であった。

(吉野弘恵)

2023年 照明デザイン賞 講評

総評

 今年の応募総数は49件で、内容も住宅、医療、商業や宗教そして公共施設と多岐に渡る作品の数々であった。1次、2次審査を経て現地審査の対象となった11件を、各審査員が現地で応募者からの熱心な説明を受けながら検証を行った。最終審査では9項目の評価項目に沿って熱心に議論され、審議の結果、今回は最優秀賞の該当はなかったが、優秀賞を含めて7作品の受賞を決定した。いずれも創意工夫に満ちた素晴らしい作品であった。

(審査員長 松下美紀)

優秀賞:石川県立図書館

受賞者:
窪田 麻里(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
村岡 桃子(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
木村 光(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
石川県
建築設計:
仙田 満(環境デザイン研究所)
ランドスケープ:
柳原 博史(マインドスケープ)
サイン:
廣村 正彰(廣村デザイン)
家具・什器:
川上 元美(川上デザインルーム)
展示:
水間 政典・塩津 淳司(トータルメディア開発研究所)

作品コンセプト:

 “知の殿堂との出会いに相応しい光” をコンセプトに、機能性と快適性が高次元で両立する照明計画に努めた。
弧を描いてレイヤーを成す書架への照明は、本を照らすという基本的機能に加えて、1.空間の明るさ感を作る鉛直面輝度、2.天井を照らすアンビエント光、3.キャレル照明、の総合体として存在する。エリアごとに異なる魅力の光の表情をもつ、目くるめく本との出会いの体験を演出する図書館照明計画となった。

講評:

 グレートホールと呼ばれる円形の4層吹抜閲覧空間と、その頭上を覆う青のドームがこの建物の象徴である。円弧状かつ階段状に積層する書架棚に、照明の主要な機能が集約されているのがポイントで、ここから主な空間の快適性を高める立面的な明るさと、閲覧のための機能照度および均斉度が提供されている。また、見上げたときに視界に入る青のドームと木ルーバーで覆われた天井面はアッパーライトで優しく照らし出されており、空間に心地よさをもたらしている。決して眩しさを感じさせないように配慮された計画により、来館者は本に囲まれた知の大空間をどこまでも回遊したくなるような気持ちになるだろう。一方で空間を包む大樹のような特徴的な構造フレームが埋没し、やや勿体なさを感じさせるのが惜しいところか。それを差し引いても、多くの市民が利用する公共空間に、優れた照明計画に支えられた魅力的な光環境が誕生した社会的意義は非常に高いものがある。

(戸恒浩人)

優秀賞:聖林寺観音堂

撮影:松村芳治

受賞者:
北川 典義(北川・上田総合計画株式会社)
上田 一樹(北川・上田総合計画株式会社)
藤原 工(株式会社灯工舎)
作品関係者:
事業主:
宗教法人 聖林寺
総合監修:
栗生 明(北川・上田総合計画株式会社)
設備:
伊藤 教子(有限会社ZO設計室)
設備:
竹森 ゆかり(有限会社ZO設計室)
照明設計補佐:
塚田 直喜(株式会社灯工舎)

作品コンセプト:

 奈良県桜井市、聖林寺の国宝・十一面観音菩薩立像(奈良時代)を安置する観音堂の改修・増築計画である。光に満たされた半球天井は、あまねく宇宙を象徴する「天蓋」を表現し、外陣からは御像の「光背」としての印象を与える。観音像と参拝者がひとつに包み込まれる内陣での空間体験が、末永く御像を後世へ継承する一助となることを願っている。

講評:

 奈良時代の木心乾漆像 国宝 十一面観音菩薩立像を仰ぎ見るように展示した観音堂の照明デザインである。光背のようにも見える半球天蓋の間接光は、写真資料のみでは適正照度環境であるか否かの判断が難しく、観音像の造形表現には高照度過ぎるようにも見受けられた。現地審査確認の結果、過剰照度は一切無く、前面からの投光による御像造形表現も巧みであった。半球の天蓋内面は左官の手技跡が残されており、間接光によりそれらが雲の如く僅かに揺らいで見える設えは像を更に大きく見せる効果も有した。国宝の湿温管理目的から像は無反射ガラスにより保護されているが、その設えの相応しさや周辺反射状況も現地で確認し、像を仰ぎ見る視線に障害となる光源映り込みは綿密に排除され、ガラスの存在を強く意識することが無い事を確認した。最後に当該ガラスの箱は「現代に於ける厨子である」とのご住職の御言葉が紹介され、この設えへの納得を覚えた次第である。

(水馬弘策)

優秀賞:琉球識名院

撮影:石井紀久

受賞者:
近田 玲子(株式会社近田玲子デザイン事務所)
野澤 寿江(株式会社近田玲子デザイン事務所)
株式会社豊田自動織機一級建築士事務所
作品関係者:
事業主:
無量寿山 光明寺
建築設計:
有限会社伊藤平左エ門建築事務所
建築設計:
株式会社TIS&PARTNERS
建築設計:
株式会社sngDESIGN
電気設計:
有限会社EOSplus
造園設計:
株式会社E-DESIGN

作品コンセプト:

 那覇市内に建つ浄土真宗の木造建築寺院の照明デザインでは、(1)中柱・梁のない天井垂木構造の天井を照らし、外の強い日差しとの対比を和らげながら御本尊像を際立たせる光で凛とした荘厳さを持つ本堂をつくること、(2)彼岸と此岸を区画する池泉に緩やかな曲線を描く本堂の琉球赤瓦の屋根が現実世界のものとして浮かび上がり、池の中心でひときわ強い輝きを放つ阿弥陀如来像が極楽浄土の再現を表す夜景をつくることを目指した。

講評:

 那覇市の小高い丘にある世界遺産「識名園」の真向かいに建立された浄土真宗の寺院である。内陣では8メートルの高さを持つ天井が昼間も間接照明で照らされている。これは、軒の深い日本建築様式と沖縄の強い日差しの気候の違いによって起きる、屋外との輝度差を解消させるためである。内陣の中央には1000Lxに照らされた阿弥陀如来立像が安置されている。宗教建築における光の役割は大きく、人智の想像を超えた世界観の表現が必要となるが、ここでは夜間、山門から見る輝くご本尊が中心性をつくりだし、その上には琉球赤瓦の大屋根、そして対の鴟尾が柔らかく輝いている。それら全体が本堂の前にある池に映り込み、昼と夜の光の2面性に加えて、水に映り込む2面性が荘厳さを表現し世界観を作っている。また、参拝者のみならず、道行く人からの見え方も計算し設計されたことが高く評価された。

(松下美紀)

入賞:金沢実践倫理会館

撮影:Koji Fujii / TOREAL

受賞者:
小杉 嘉文(株式会社竹中工務店)
松本 浩作(有限会社スタイルマテック)
天野 裕(ARUP)
作品関係者:
事業主:
一般社団法人実践倫理宏正会
建築設計:
上河内 浩(株式会社竹中工務店)
設備設計:
金子 研(株式会社竹中工務店)
設備設計:
杉浦 康太(株式会社竹中工務店)
照明設計:
真崎 雅子(有限会社スタイルマテック)
ファサードエンジニアリング:
松延 晋(ARUP)

作品コンセプト:

 早朝に集まることに特徴がある集会場の建替計画。複数の緑化テラスを立体的に配置した空間構成と、木漏れ日のような光を内部に導くキャストガラスをスクリーンに設けることで、日照時間が短い北陸において、特に夜明けの光の変化を体験し、光を繊細に空間に取り込むことを試みた。間仕切壁を排した館内において、自然光と照明光を組み合わせた光の操作によって、公園のように自由に居場所を見つけられる空間づくりを目指した。

講評:

 金沢の伝統的な街並みや自然光の特性にも配慮した照明計画で、ここを訪れることで体験できる光の変化となっている。ファサードに組み込まれた導光ガラスは自然光を取り入れるだけでなく、夜間は漏れ光として建物の存在感を示す効果も得られる。インテリアにおいても照明器具の存在感を感じさせずに必要な場所の明るさが得られるよう工夫され、自然光と人工光を一体的に検討された成果となっている。

(福多佳子)

入賞:LOQUAT Villa SUGURO

撮影:ナカサ&パートナーズ

受賞者:
永津 努(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)
井上 裕史(株式会社 乃村工藝社)
大西 彩生(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)
作品関係者:
事業主:
高野 由之(土肥観光活性化株式会社)
ディレクション:
小糸 紀夫(株式会社 乃村工藝社)
グラフィック:
二瓶 渉(株式会社 SHIROKURO)
ランドスケープ:
藤原 駿朗(株式会社 オリザ)

作品コンセプト:

 西伊豆は過疎化問題を解消するため、古民家をオーベルジュとして改装し、古来の建築の魅力を再発見し住民たちが誇りを感じられる文化継承のプロジェクトである。“古美と過ごす価値”を焦点に、「古と新が混ざり、人々が心通わせる場に寄り添う光」をコンセプトに掲げた。建物本来の美しさや、敷地が持つ豊かな魅力を尊重し、手を加え過ぎず繊細かつ自然なデザインは、景色・風・音・文化に包まれ一期一会の体験ができる宿となった。

講評:

 西伊豆の古民家を魅力ある宿泊施設として再生するために、細かく心配りされた照明デザインが大きな役割を果たしている。古い施設が新しく優しい光に出会うことに感動した。
 日中に自然光を浴びて輝く外の緑たち。そして薄暮から夜に外と内を結びつける植栽照明。「古美と過ごす価値」「人々が心通わせる場づくり」が事業者や内装設計者との間で丁寧に創られたそうだ。過疎化する街に照明デザインが新たな魅力を与えることの社会性も高く評価した。

(面出薫)

入賞:OMO7_大阪 by星野リゾート

撮影:稲住写真工房

受賞者:
松尾 和生(株式会社日本設計)
大山 直樹(株式会社日本設計)
吉野 弘恵(アカリ・アンド・デザイン)
作品関係者:
事業主:
株式会社星野リゾート
設計・監理:
株式会社日本設計
内装デザイン:
東 環境・建築研究所
湯屋デザイン:
岩田尚樹建築研究所
ランドスケープデザイン:
オンサイト計画設計事務所
施工:
竹中工務店・南海辰村建設共同企業体

作品コンセプト:

 大阪・新今宮エリアという存在感のある立地環境の中で、照明・建築・ランドスケープが融合したデザインにより今までにない「街ナカ」ホテルを創り上げた。都市でありながら非日常性を感じる照明計画をコンセプトに、ファサードの外装膜に溶け込んだ演出照明はプロジェクションマッピングにない鮮やかさや動きを創り出している。夏は花火、秋は舞い落ちる紅葉など日本の四季に応じた演出が訪れる人々を楽しませる空間となっている。

講評:

 新今宮駅前は、観光名所通天閣にも近く大阪を象徴するエリアの一つである。観光ホテルの外観は幾何学パターンの「白い膜」に覆われ、ガーデンエリアから建物内へと続く伝統建築からポップ・モダンを織り交ぜたカジュアル感覚のインテリアまで、トータルにスマートな感覚に溢れている。また、そこかしこに大阪キャラクターとの共存があって、来客を楽しませ惹きつけ、そして、もてなしている。照明計画も多彩であることは言うまでもなく、日が暮れると外観の「白い膜」から内蔵されたLED照明の演出がはじまる。プログラムされた光のドット絵は、周辺の賑わいと協調し、これからの大阪を表出することに貢献する。景観としてプログラムされた世界観を評価することは控えさせていただくが、意欲ある新たな構想計画、試みとして評価したい。

(五十嵐久枝)

審査員特別賞:医療法人 厚生会 福井厚生病院

撮影:川澄・小林研二写真事務所

受賞者:
藤平 真一(株式会社久米設計建築設計室)
奥井 優介(株式会社久米設計電気設備設計室)
山口 高弘(株式会社久米設計電気設備設計室)
作品関係者:
事業主:
林 讓也(医療法人厚生会 福井厚生病院)
電気設計:
小玉 敦(株式会社久米設計環境技術本部)
建築設計:
小方 信行(株式会社久米設計医療福祉設計室)

作品コンセプト:

 「あたりまえの日々に寄り添いたい」という思いを掲げ、地域のかかりつけ病院として歩み続けてきた福井厚生病院の移転新築計画である。自然然豊かな立地に調和する丸みを帯びた建築デザインを活かし「雪洞(ぼんぼり)」のような温かみのある照明計画とした。患者さんが長い時間を過ごす病室や透析室は優しく、情報が飛び交うスタッフエリアは機能的に、夜は安らぎと癒しの象徴として、シーン毎の丁寧な光環境デザインに配慮した。

講評:

 丸みを帯びた建築デザインは柔らかな印象を与え、病室の天井と壁面とのエッジの消失させて空間に広がりを与える。長期長時間滞在者に配慮した柔らかな空間を演出する照明が評価された。天窓光が幕天井に落とす光陰の見えや、通路コーニス照明がその長手方向と重なる視線で眩しいなどの局所的課題は数点あるが、複合多用途空間が入組む病院建築でありながら、全体にわたり主たる視点では柔らかな良好な照明環境にまとめられている。

(原直也)