「杉の森酒造」は1793年に創業し、2012年惜しまれつつ営業終了をした長い歴史を持つ。この造り酒屋が持つ歴史的建造物を未来へ残すため、酒造りを再興し、宿・レストラン・浴場を併設する施設として再生した。
母家や蔵は、重要伝統的建造物群保存地区に登録され、外観維持の規制がかかる中で、快適性・耐震・温熱・防火性能を向上しながらADR(客室平均単価)10万円の宿泊環境の創出を目指した。古いものはなるべく残し、新しく挿入される要素との調和を図りながら驚きや非日常性を生み出し、「遺す」「変える」「間(はざま)」という3つのコンセプトを軸として照明計画を行った。
古民家を活用した宿・レストラン・浴場に対し、単純に全体を明るくするあかりではなく、スポット照明や間接照明により、既存建物に寄り添い、古さを演出した暗さが感じられるあかりとなっている。また、室の特徴を生かした調光制御が導入されており、多様な空間を演出している。歴史的建築物の再生の見本となる照明計画である。